うちの夫は、意外と「クローズドな病人」で、闘病中は誰にも心配をかけたくないし、誰にも会いたくないと、お見舞いも受け付けず、私以外の人間を寄せ付けませんでした。だから、本当に2人だけの闘病。そこに一部の医療関係者やお手伝いさんが温かく寄り添ってくださり、本当に小さなチームで病気と闘った感じです。おかげで、夫とは少し仲良くなれたかな。そう考えると、意外といい2年間でした。この2年間はまったく喧嘩をしなかったですし。復帰後の今は、マックス喧嘩してるんですけどね(笑)。

それにしても、「ガルル」の私が夫の闘病のために社長を退いたのは、周囲の人からしたら意外だったようです。多くの人は、我々夫婦を「かかあ天下」と決めつけているようです。

でも、実際の夫婦関係は全然違うんですよ。ウチの旦那は、私がいかにクルクルパーかがよくわかっている(笑)。「おまえ、よくそんなわかったようなことが言えるな」とか、「よくアホがバレずに済んでるな」なんて、いつもからかわれています。

なけなしの頭脳でぱっつんぱっつんに頑張っている私が、哀れなようです。先日も、2人してマクロ経済を解説するテレビを見ていたのですが、私が夫にまたバカな質問をして、呆れられました。「おまえ、それ、絶対に外で言うなよ」って。

おかしいですよね。私は大学でもビジネス・スクールでもマッキンゼーでも十分に経済を勉強したつもりだったのに。片や夫は工学部出身。経済は勉強していないのに、なぜ私より経済を理解しているのでしょうか。

思えば、こんなこともありました。DeNAを立ち上げたばかりのときのことです。あろうことかサービス開始が迫った時点でシステムが全くできていなかったという大事件がありました。ほうほうのていで帰宅し、寝ている彼に「詐欺に遭った」とつぶやくと、夫はガバッと起きて、冷静に対処法を指南してくれました。そして「『詐欺に遭った』なんて間抜けなことは言うな。社長は最大の責任者、加害者だ。なのに被害者のような言い方をしたら誰もついてこなくなるぞ」と檄を飛ばしたのです。私は家庭では仕事の話をしないので、夫のアドバイスを聞いたのは後にも先にもこのときだけです。そして、そのアドバイスを実行し、実際に、最悪の事態を乗り越えました。そんなこともあって、私は夫を尊敬しているんです。