会社や仲間に堂々と迷惑をかけてほしい

2年の闘病生活の後、我々夫婦がどうなったかに話を戻しましょう。それが有り難いことに、夫のがんは縮小しはじめ、12年の夏には、画像に腫瘍が映らなくなりました。今では、海外旅行はもとより、ゴルフもダイビングも何でもござれという状態です。西洋医学のお医者さんは、説明がつかないと言うのですけどね。調子に乗って、このままいってくれと思っています。

そして私は、主人の看護中は週1回の出勤、月数回の長い会議とビデオ会議にさせてもらっていた勤務を、再びフルタイム勤務に戻しています。夫は、「休んで迷惑かけたんだから、頑張って働け」と文句も言わずに送り出してくれています。

正直この2年は、それまでに体験したこともない苦しみや悲しみを突き付けられた日々でした。けれども、いくつかの大事な拾い物をした気もしています。その一つが、家族の大切さに改めて気づいたこと。私に仕事をこんなに頑張らせてくれたのは、家族が許してくれたからだと今まで以上に感謝するようになりました。また、家庭より仕事が大事なんて人はめったにいなくて、みんな家族が一番大事なんだということが、自分自身が家族優先になってみて、心底わかりました。

そこで、社員が、出産や育児や介護と両立しやすい会社にしていこうと、両立支援に自然と目が向くようになりました。今までも、短時間勤務制度(時短)や雇用形態を選択できる制度や、一部在宅勤務を認めるなど多様な制度を用意してきました。それでも、どこか遠い「対処すべき課題」のような捉え方でハンドリングしていたような気がします。ところが、夫の闘病以来、人生にはいろいろなことが起きると実感し、両立支援に魂が入るようになりました。

私が夫の看病をしていた2年間は、「時短」と「在宅勤務」制度を活用している状態でした。これではさすがに社長の大役は続行できないと判断しましたが、仕事時間中は全力で仕事に向き合うことで、しっかり取締役の役目は果たすことができたと思っています。そして、このように家庭の事情で仕事の時間を短くせざるをえないケースは、「産む性」である女性に限らず、誰だってあるのです。そんなときでも、キャリアを諦める必要はありません。仕事をしている時間に、全力で働けばそれでいいのです。

一般的に、日本人は「人に迷惑をかけるな」と言われて育ちます。でも、時には会社の仲間や社会に迷惑をかけたって、頼ったっていいではありませんか。迷惑をかけたら、あとで、できるときに他の人を助けてあげればいい。むしろ、お互いに迷惑をかけあうことで、コミュニティの絆がタイトになると感じます。

だから、迷惑結構。迷惑歓迎。堂々と会社や仲間に迷惑をかけてほしい。誰かが制度を活用したときは、「ウチの会社も一歩進んだね」と祝福して大絶賛する、そんな風土がつくれたらいいなと思います。そのためには、ケースを積み上げていくしかありません。