独特の乗り味は度肝を抜かれた

新型と旧型の違いは、クルマを受け取り、市街地を走り始めた時点で如実に体感できた。道路の凹凸を全部吸収しようとしているのではないかと思われるほどに足の動きが柔らかく、室内の騒音レベルもきわめて低い。道路が多少でこぼこしていようと、フロアがほぼ水平移動しているように感じられる。通常のプレステージサルーンと比較しても、その独特の乗り味はちょっと度肝を抜かれるほどだった。

これまで道路交通のスピードが欧米に比べて格段に低い日本の道路に合う高級車として人気を集めてきたアルファード/ヴェルファイアだが、旧型まではさまざまな弱点も抱えていた。その最たるものが乗り心地である。そびえ立つような威圧的なエクステリアや豪華な内装を持っており、見た目にわかりやすい高級感を濃厚に訴えてくるのだが、いざ走らせてみると路面からの突き上げ感が強く、結局はミニバンなのかとがっかりさせられたものだった。新型は後サスペンションを新規設計し、それまでのトーションビーム式という半独立型から、セダンの高級車と同じような完全独立型のマルチリンク式に変更された。

試乗ルートは東京と愛知県豊田市の往復。その間、市街地、高速道路、静岡~愛知にかけてよく整備された流れの速いバイパス、伊豆の山道など、さまざまな道路を走ってみて感じられたのは、新型アルファード/ヴェルファイアの開発陣は、サスペンションの性能が上がった分のほぼすべてを、ハーシュネスカット(突き上げ感の削減)に使ったのではないかとということだった。

市街地で素晴らしく滑らかに感じられた乗り味は、高速道路やバイパスでも基本的にそう大きくは変わらない。ハンドリングは極端な直進性重視で、高速道路ではステアリングの修正をほとんど加えずともばく進するというイメージだ。が、乗り心地については気になる部分も若干出てくる。速度が上がって道路の段差などを踏んだときのサスペンションの動きも速くなってくるにつれ、衝撃の抑え込みが甘くなってバタつきが感じられるようになる。また、舗装の補修箇所が連続するような鈍い衝撃が連続する局面でも、ブルブルという内臓を揺するような振動が発生する。これは、サスペンションを支える部分に装着される衝撃吸収のためのゴム部品に相当柔らかいものを使っていることに起因すると考えられる。

これは本来、クルマの乗り心地を向上させる方法としてはあまり良いものではないとされていることだ。が、試乗車のヴェルファイアハイブリッドは車両重量が2.1トン以上という、乗用車としてはスーパーヘビー級。ボディの重量が大きくなると、相対的にブルブルという振動の影響は小さくなる。その振動をすべて取り切って、なお滑るような乗り心地を維持するのは大変なことで、それこそコスト青天井の超高級車の世界になってしまう。

車両重量を生かして不整路面での乗り心地の悪化を目立たせないようにしつつ、良路での乗り心地の良さについては徹底追及するという作戦は、長距離試乗してみたかぎり、高級ミニバンの作り方として当たりだと思えた。9割の路面で大満足する乗り心地を得られるのならば、残りの1割の路面で少しくらい気になるところがあっても大目に見る気になるのがユーザー心理というものだからだ。