米国が消費税を「導入の必要なし」と結論付けた理由

日本の消費税法を見ても、消費者に消費税の納税義務はない。納税義務が生じるのは事業者であり、事業者が消費税分を価格に転嫁した結果(転嫁すべしという法的強制力も実はないのだが)、物価の値上がりという形で消費者が負担する。もともと消費者が負担する義務のない税金を消費税と名付けるのはおかしな話で、だからこそ海外では消費税ではなく付加価値税と称され、実質事業税という位置付けになっている。

今や世界140の国と地域が採用している付加価値税は、54年に世界で初めてフランスが国として体系的に採用して以降、瞬く間に世界中に広がった。そんな潮流に抗し、現在も付加価値税の採用を見送り続けているのが連邦政府としての米国だ。

米国にも付加価値税によく似た小売売上税(州税)がある。こちらは消費者から預かった税金をそのまま小売業者が納める「単段階」の方式を採用している。一方、付加価値税では生産から消費までの間に絡むすべての業者が自分の支払った付加価値税と受け取った付加価値税とを相殺して納税する「多段階」方式を採用している。自身の採用する小売売上税とはまったく別物というのが米国の見解でもある。

米国では付加価値税の導入の必要なしという結論を実は40年以上前、米企業課税特別委員会、米上院委員会、米財務省などでの議論を経て導き出している。初めて大統領に提出された委員会の報告書には付加価値税不採用の理由として輸出企業への優遇策となる点を掲げていた。米国の指摘がすべて正しいとするつもりはないが、通商や市場経済に関しては自由貿易、公平な市場競争を標榜するのが米国だ。特定企業への優遇策となりうる付加価値税は、不公平税制であるがゆえに採用しないというのは筋が通っているといえよう。


米企業課税特別委員会の報告書(1969年)

企業課税特別委員会が69年に大統領宛に提出した第1回の報告書(写真参照)には、「この税金(=付加価値税)は、もちろん輸出品にリベートが渡され、輸入品に課税されるものだ」との一文が残る。この場合のリベートとは日本語の持つ賄賂のニュアンスはなく、販売奨励金・補助金を意味している。

日本で消費されれば日本の消費税がかかり、日本製品が海外に輸出されれば海外の付加価値税が課せられる。「仕向地原則」といって、消費税・付加価値税は消費された土地(国)で課税される仕組みだ。日本の輸出企業は海外の消費者から日本の消費税を預かるわけにはいかない。

そこで、輸出について消費税はゼロ%税率が適用されている。一方、輸出製品を作るため輸出企業は日本国内の子会社などから部品を調達する。その際に輸出企業は本体価格のほかに消費税を支払っている、とされる。国内で消費税を支払っても、海外から消費税を受け取れない、消費税の払い損をしているとして、輸出企業は日本政府から「還付」を受け取っている。消費税5%時代、消費税の税収は約13兆円あったが、還付を差し引いた実際の税収は10兆円前後にまで落ち込んでいる。