プロトタイプをつくることができる強み
また、近年は大手製造業が商品の企画・開発・設計といった機能に特化するようになったため、それまで大手が持っていた生産技術などのコア技術が、1次、2次協力メーカーに移ってきている。日本の中小企業はそのような高度な技術を手に進出するのだから強い。
技術に関していえば、日本にはプロトタイプをつくることができるという強みもある。いくらグローバル化といっても、世界中の人が一様な環境や文化の下に暮らしているわけではない。同じ製品でも国や地域によって、仕様を微妙に変えるのは当然だ。バイクを例に挙げれば、日本なら気温がマイナス40度からプラス40度まで耐えられる設計がされているが、東南アジア向けだと、下はマイナス10度から上は80度くらいまでというようにしないと、トラブルが生ずる。
しかし、このような仕様の変更は、ローカルメーカーにはまずできない。なぜなら、そのためにはセットメーカーだけでなく2次、3次メーカーが一緒になって実験を重ねるなどのすり合わせが不可欠になってくるからだ。ところが、東アジアにはそういうことができるだけの高度な技術もなければ、実験環境も整っていない。いまのところそういった新たなプロトタイプをつくれる条件がそろっているのは、日本、アメリカ、そしてドイツといった先進国なのである。
もうひとつ見落としてならないのが、日本の中小企業の持つフレキシビリティーだ。例えば市場環境が急変して、発注元が100の生産計画を突然80に減らすと通達してきたとしよう。これをすんなり受け入れる企業は、欧米にも東アジアにも中国にもない。だが、日本の中小企業はこのような無理をいわれても、契約違反だと騒ぐこともなく、柔軟に対応する。こうしたフレキシビリティーも、日本の中小企業の優位性を高める大きな要素となっているといえる。
このように見てくると、日本の中小企業の未来を悲観する要素はほとんどないことがわかるだろう。もちろん淘汰されていく企業もあるだろうが、それはせっかくのチャンスを活かす経営をしていないからであって、中小企業だからということではないのである。自身の強みを再認識して、グローバル化に対応できれば、中小企業の未来はまだ明るいのだ。
1944年、群馬県生まれ。立教大学法学部卒。姫路工業大学(現・兵庫県立大学)環境人間学部教授を経て、08年福井県立大学経済学部教授。現在は、同大学の特任教授、地域経済研究所所長も兼務。