しかし、先ほどの新聞記事ではないが、こういう“現地では当たり前の”情報を日本のメディアは、なかなか伝えてくれない。代わりにソニーやシャープやパナソニックなど、かつて日本経済を牽引した大手電機メーカーの不振や凋落といったことばかりをセンセーショナルに報道するものだから、日本のモノづくり産業はもう終わった、大手ですら青息吐息なのだから、中小企業が生き残れるはずがないと、多くの人が思い込んでしまうのも無理はない。

いっておくが、日本のモノづくり産業は相変わらず世界一であり、その評価はいささかも揺らいではいないのである。どこでもいいから東アジアの電気街を歩いてみるといい。エアコン、冷蔵庫、洗濯機などのシロ物家電は、日本製が圧倒的な強さを誇っており、現地で部品づくりをする中小企業はフル稼働である。

また、パソコン、携帯電話、テレビといったエレクトロニクス分野の日本製品が、サムスンなどの韓国製に押されて店の隅に押しやられていることも事実としてあるが、それは日本のモノづくりの敗北を意味するものではないのだ。なぜなら、韓国製の売り上げが伸びると、部品など中間財を供給する日本の中小企業も成長する。それは、旧来の「生産ネットワーク」が変化しているからである。

従来、中小企業といえば国内での大手の系列、つまり「下請け」が大半だった。ところが、海外に進出すると、日本国内にあった系列という概念がなくなる。どこの新興市場も日本ほど市場は大きくないので、1社の仕事だけやっていたら経営が成り立たない。ゆえに中小企業は日本を出ると、複数の企業の仕事を受けるようになり、大手にとってもそれは当然のこととして捉えられている。実際、東アジアでは、日本メーカーに部品を供給する一方で、韓国とも取引をしている日本の中小企業はたくさんある。そういうところは日本メーカーのシェアが低下しても、全く影響を受けないのだ。