経営者に必要な正統性の物差し

JR東海名誉会長 
葛西敬之氏

思い出すのは、国鉄民営化のために力を尽くしていた頃のことだ。政府と国鉄は経営崩壊後も、公社制度の維持や漸進的改革の案にしがみついていた。政府はときに分割民営化案を駆け引きとしてちらつかせ、経営陣への責任転嫁を行おうとしていた。私たちはそれを逆手にとって、政府・国鉄の再建計画案を否定し、分割民営化を自分たちから本気で提起した。すると世論の支持が私たちに集まり、攻守が逆転する。それは、いま思えば自己否定の中に活路を求めるタレイランの手法がヒントになっている。

権力を持ち始め、何かを決定する立場になるにつれて、人はその判断について大きな責任を持たなければならなくなる。そのときに自分の「出世」や「立場」をいかに保つかと考えるのではなく、自らにとっての合理性と正統性の物差しをはっきりと持つこと。この一点が常に動かなければ、たとえ多くの人たちに反対されても判断が揺らがずにすむ。

(小宮一慶=総括、分析・解説)
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