利率2%台後半の個人向け社債も

個人向け社債の利率は1~5%
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個人向け社債の利率は1~5%

2008年後半から個人向け社債の発行が急増している。年間の発行額は1兆3338億円と過去最高を記録した。

個人向け社債の増加には大きく3つの背景がある。

第1は世界的な金融危機で株式市場が低迷したため、株式市場を通じた資金調達が難しくなったことだ。2つ目は、企業業績の悪化による信用リスクの高まりから、これまで社債の引き受け手だった機関投資家が、社債を敬遠するようになったこと。

3つ目は個人投資家の関心が高まったこと。長引く低金利で個人は資産の振り向け先に困っていた。そこに従来は一口1億円以上の大口が中心だった社債を10万、100万円単位などに小口化した個人向け社債が登場。利率も、国債や預金よりもはるかに高いために、一気に個人投資家のあいだで人気化したというわけだ。

特に2009年1~3月は、メガバンクによる大型個人向け社債発行が相次いだ。3月に三菱東京UFJ銀行が発行した個人向け社債は、期間は8年とやや長いが利率2.75%と破格で注目が集まり、発行額を当初予定の2000億から4500億円に増額した。ほぼ同時期に発行されたみずほコーポレート銀行や三井住友銀行の個人向け社債も、期間8年で利率はそれぞれ2.86%と2.73%だった。

メガバンクの定期預金金利は、300万円以上でも、5年もので0.3~0.4%。個人向け国債(5年、固定金利)の利率が0.8%にすぎないことを考えれば、投資家が殺到するのも頷けるところだ。

しかし、表面的な利率の裏には、それ相応のリスクがあることを忘れてはいけない。

まず発行体企業の破綻リスク。社債を発行する企業が破綻すれば、元本の一部が戻らない危険性がある。01年に流通大手のマイカルが発行した100億円の個人向け社債が、同社の破綻により債務不履行になっている。

2番目は流動性リスクだ。社債は、償還前でも購入した証券会社などで売買できるが、買い取り価格は時価なので、売却時に元本を割る可能性もある。また、買い手がいなければ買い取ってもらえないこともある。

これらのリスクと金利を比較した場合、必ずしもお得感のある商品とはいえないものもある。

特に、2009年6月以降は個人向け社債を取り巻く環境が大きく変化している。金融市場が急速に安定化したため、機関投資家も社債を引き受けられるようになった。このため、普通社債の発行が増える半面で、個人向け社債の発行件数は徐々に減りつつある。にもかかわらず、あえて個人に頼って社債を発行する企業は、信用力に問題がある可能性がないとはいえない。

しかも、2009年の初めに比べると長期金利は低下傾向にあるため、社債の利率もかなり低くなっている。こうした変化の中で、飛び抜けて高い利率を提示している企業は、リスクが相当に高まっていると見るべきだ。

安心できる投資先を探すならば、利率は低くても、信用度の高い企業の社債を選ぶべきだろう。例えば電力、ガス、電鉄系など公共性の高い企業はほとんど破綻リスクがない。こうした企業の場合は、社債の発行量も多いため、償還前に売却せざるをえなくなった場合でも、希望額に近い価格で買い取ってもらえる可能性も高い。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=平原 悟)