政治のスピードが速いと経済回復も早い
歴史的な経済危機から、世界経済が回復の兆しを見せている。
とりわけ、急速に回復しつつあるのが、中国を筆頭とする新興国だ。台湾、上海、香港などの株式市場は、軒並み2008年9月のリーマンショック前の株価水準に戻している。BRICs諸国も中国を筆頭にインド、ブラジル、ロシアが底値から株価を2~5割も戻している。
では、こうした新興市場の急速な回復は本物なのか。この判断は、個人投資家がマネー戦略を考える意味でも大きな分岐点といえる。
海外投資専門チャンネル「World Investors.TV」を運営し、海外投資の著書も多いザ・スリービー代表の石田和靖氏に話を聞いてみよう。
「新興国の中でも、景気回復のスピードには大きなばらつきがあると思います。原油価格や米国経済が以前のように戻らないと、なかなか経済の回復が実現できない国もあれば、中国のように内需拡大で独自に回復しつつある国もある。問題は、どこが最初に回復していくのかですが、私は中国とアラブ諸国だと思っています。この両者には、共通項がいくつかあって、第一にともにお金持ちであること。中国は約2兆ドルの外貨準備高を積み上げ、アラブ諸国は政府系ファンドやイスラム金融などで莫大な資金を欧米企業に融資しています。第二には政治のスピードが速いこと。中央政府や王様の決定で素早く改革ができる。経済危機の影響が意外と軽微で、素早く回復しつつあることも共通点です」
石田氏は、最近、イラク北部と原油の埋蔵量や農耕地が豊富なアフリカのスーダンを視察したばかりだという。
「イラク北部(クルド地区)、スーダンともに中国人ビジネスマンで賑わっていました。そういう意味でも、中国の強さは際立っていると思います。実際、インドは11億人の人口を抱え、中国同様に旺盛な個人消費はあるものの政治の混乱が多く、改革のスピードが遅い。ブラジルやロシアは、原油や資源の価格動向によって景気回復のスピードが異なり、直近の投資先としてはまだまだ不透明感が残ります。
ただ、長期的な視点で新興国の可能性を見た場合、私は『インド洋ベルト地区』が有望だと考えています。インド洋に面しているタイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、付随してベトナムなどが、景気回復さえすれば経済成長が期待できると思っています。経済危機からの回復局面というシーンでは、中国やアラブ諸国に投資するのが回復のスピード、投資効率という面で期待できるのではないでしょうか」
中国が投資対象として期待されていることはすでに周知の通りだ。中国市場を投資対象とする投資信託をはじめ、香港市場に上場されている本土企業の個別銘柄=H株への投資も活発だ。ただし、やや上昇のスピードが急ピッチすぎるのも気がかりといえる。
そこでお勧めは、アラブ諸国やアフリカに投資する投資信託。詳細は、別表を見ていただきたいが、これらのファンドの運用益はこの1年で大きく下落。基準価額も大きく下げたままで、リーマンショック以前に戻るにはまだ時間がかかりそうだ。
その半面、今のうちに投資しておけば、本格的に回復を始めたときには大きなリターンが期待できる。為替リスクなどもあるが、中長期で考える新興国投資の選択肢の一つとしては面白い。
※すべて雑誌掲載当時