女房が倒れたのは天の警告か

昭和シェル石油 香藤繁常会長兼CEO

2005年3月に専務取締役になり、経営執行部の改革も進めたいと考えていた。例えば、更なる各役員の権限と責任の明確化や経営判断の迅速化などである。

その年末、当時の新美春之会長に呼ばれた。「来年度から、会長、副会長、社長のトロイカ体制でいきたい。ついては、君に副会長を受けてもらいたい」という。この合議制的な経営体制は、明らかに私の目指すものとは異なる。ましてや、副会長という中二階的な立場では、自分の考えをストレートに社内のラインに伝えるのはむずかしいだろう。誰がトップなのか、はっきりしなければ社内は混乱し、更なる変革は望めない。私自身としても、エキサイティングな気持ちを持ち続けられないなら辞めてもいいとさえ思った。

そんな時期に家内が脳梗塞で倒れた。私は仕事の都合上、ウイークデーは東京、週末に千葉の自宅に戻るという生活パターンを繰り返していた。その日は週の半ばだったが、会食などの約束もない。特に理由もなく帰宅した。日付が変わった未明だったと思う。隣で休んでいた家内の様子がおかしい。灯りをつけると、顔が引きつっていて、すぐに脳の病気を疑った。救急車を呼んで病院に運ばれたが、医師からは「脳梗塞です」と告げられる。

幸い発症から短時間で治療することができたが、それでも2週間ほどICU(集中治療室)にいて、私も毎日のように病院へ足を運んだ。当然、仕事も手につかない。「何くそ!」と自分に気合いを入れながらも、ベッドで眠っている家内の顔を見ていると「彼女が倒れたのは、天の警告かもしれない」と感じた。これまでずっと亭主関白を通し、家内には苦労をかけっぱなしだった。万が一、彼女に後遺症が残ったら、退職して、余生はずっと側にいようと決めた。