売る側と買う側の立場が逆転
第1次石油ショック――。中高年以上の人なら、あのときの狂乱した世情を覚えているだろう。1973年にアラブ諸国対イスラエルの第4次中東戦争が勃発。産油国の原油の減産と大幅値上げで、輸入に頼らざるを得ない日本では、国内のガソリンのみなら消費財の値段が急騰した。ガソリンスタンドにはクルマの長い行列ができ、主婦がトイレットペーパーを買い漁った光景が連日のように報道された。もちろん、この状況は石油業界にとっても大きな痛手だった。
当時の石油業界は元売りが強い構造になっていた。石油ショックからしばらくして、私は広島支店の広島山口販売課に異動となった。担当する特約店を訪ねていくと、下にも置かぬ扱いなのである。打ち合わせ後の宴会などでは、そこの幹部社員より年下の私が上座。いわば、売る側と買う側の立場が逆転している。さすがに私は「これはおかしい」と思った。
そして、このいびつな関係は、石油ショックによって、修正されるどころか加速したのである。というのも、供給が限られているから元売りの権限はより強くなる。特約店にしてみれば、1リットルでも多くガソリンが欲しい。できることといえば、元売り会社に日参して、頭を下げるだけだ。そうなると、特約店担当者のなかには、勘違いして態度が横柄になる者も出る。
シェル石油(現昭和シェル石油)において、石油製品の出庫を管理していたのは業務課である。私も広島支店内の特約店のために、彼らが必要としている量が確保できるように働きかけた。だが、業務課の社員は「割り当て以外のものは一切出せない」と取りつく島もない。そこで私は一計を案じた。というより、あえて“掟破り”の挙に出たのである。特約店がとりわけ困っていた灯油を市場から調達するお手伝いをした。会社への利益貢献は無かったが、特約店からは非常に感謝された。