社員が反対することばかりやってきた

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「外資」でキャリアアップを重ねた原田氏の40年
――41歳でアップルに移ります。

【原田】私の意図しない要因で、シュルンベルジェを辞めることになり、たまたまアップルに誘われたんです。実は同時期に別の大手IT企業からも誘われていました。ただ、その会社はどう考えてもできあがった会社。アップルはどう考えても変な会社でしたが、将来性があるような気がしました。

順調なビジネスというのはおもしろくありません。私のキャリアで、自ら退職を決めたのは、2社目の横河ヒューレット・パッカード(HP)だけです。なぜHPを辞めたか。それは当時のHPが「できあがった会社」だったからです。当時のHPは横河電機が51%を出資しており、安定した日本企業でした。給料もいいし、人もいいし、システムも何でもある。でも、私にはおもしろくなかった。みんな標準化している。飛び抜けた人間がいないとおもしろくない。

アップルはユニークな会社でした。ウインドウズが参入してくるまで、おもしろいように売り上げが伸びました。米本社に移り、どん底状態にあった日本法人を再建するため、48歳で社長になりました。社長に就任したとき、自分がこれまで上司に甘えてきたことを痛感させられました。社長には上司がいません。昔は上司によく噛みついていましたが、それは甘えにすぎなかった。そのときから、自分の仕事への姿勢は大きく変わりました。

――IT業界での経験が長かったにもかかわらず、その後、「マックからマックへ」と移り、話題になりました。

【原田】私はアップルの社長になるまでのキャリアで2つのことを学びました。

ひとつは、「自ら変わらない限り、生き残れない」。IT業界は変化のスピードが速い。しかもテクノロジーだけでなく、ビジネスモデルも変わり続けている。生き残るためには、トッププレーヤーであっても、自らを率先して変えていくことが求められる世界です。

もうひとつは、「コンピュータは人を便利にしたが、幸せにはしていない」。人を幸せにするためには何が必要なのか。そう考えたときに、私は冗談まじりに「世界中に通用するブランド力を持った焼き芋屋をやりたい」といっていました。そうしたら偶然にもフライドポテトで有名なマクドナルドから声がかかったのです。

外食業界はIT業界以上に変化を求められ続ける世界です。お得感のある「100円マック」、高カロリーの「メガマック」、100円コーヒーの「プレミアムローストコーヒー」、24時間営業の拡大。様々な手を打ち続けてきましたが、こうした施策は例外なく社員の反対にあいました。

私が、マクドナルドで何をやったのかと問われたら、一つの表現としては、社員が反対することばかりやってきた、といえます。ヘルシーがトレンドだといわれていたのに、高カロリーの「メガマック」を販売し、爆発的に売ったわけです。残念ながら、ひとつの成功は長続きしません。競合に追いつかれてしまうからです。100円コーヒーは、いまやコンビニが当たり前のように取り入れています。スピードが速く、厳しい世界です。

ベネッセの場合は、すこしアプローチが違います。必要なのは社員が反対するようなビジネスをすることではありません。ベネッセに必要な変革は、ビジネスに対する姿勢や組織風土です。「いくら売れるかなあ」ではなく、「いくら売るか」という発想をする。「どれだけできるか」ではなく、「どれだけやらなきゃいけないか」という議論をする。そういったことを社員に向けて発信しています。