「法に抵触したら責任とれますか?」

「今の時点では『ある』とも『ない』とも言えません。すみませんが……」

TPPに関する取材に何度も応じてきた某省キャリア官僚A氏は、日米間の水面下での接触について問うと、こう言って笑いながら席を立とうとした。

拒絶一点張りの相手にしつこく聞いても仕方がない。そこで、その場で接触の実態そのものを問うのはやめて、次のような会話に方向を転じてみた。

――重要なことなので、そのように笑って終わられても困りますが。

「重要だからこそ言えない、という意味です。それでは、私が質問に答えて法に抵触したら責任をとれますか?」

――私が責任を?

「そうです」

――責任というのは何に対しての?

「私とか裁判所に」

――裁判所が責を負うのは?

「当然、法律です。我々もそうです。だから、法が制定され施行されたからには、裁判所も我々役人も秘密保護法に従うわけです」

――「民主主義の基本ルールから逸脱し、政府と国会は判断を誤った」として、左右を問わない学者や米政府元高官からも強い批判が巻き起こりました。

「でも、結局は法が制定され、施行された」

――それが憲法に違反していると批判され、すでにいくつもの違憲訴訟が提起されていますし、国会で法が破棄される可能性もあります。

「しかし、それは我々官僚が考えることじゃないでしょう」

――法の運用を誤るな、暴走するな、というのが国民感情です。運用は行政に委ねられているわけですが。

「我々は法に従うだけです」

――そうは言っても、官僚は政治家をうまく誘導して法を作らせたり、法の運用をコントロールしてきたりしませんでしたっけ?

「そういう見方もあることは知っていますが、我々は公僕ですよ(笑)」

――法の施行で、マスメディアの記者に情報の配分を考える必要もなくなったのでは?

「結果的に言えば、そうですね」

――法律ができて、むしろラクになった?

「ラクになったというのは語弊がありますが(笑)……まぁ、法で禁じられたから、と言えば記者にならわかってもらえます」

――記者なら? 本当ですか?(笑)

「ええ。……とにかく、今後はこの種の取材は受けられません。残念ですが」

秘密保護法のおかげで「違法になるから言えない」との大義名分ができたから、やはり官僚にとっては都合がよい面が多いのだな、と改めて合点させられるコメントだ。