運航を軌道に乗せるには、首都圏だけでなく、就航地の乗客を増やすことが不可欠だ。地元テレビ局の番組でのPRも自治体の強いサポートがあったという。背景には、地方空港を運営する自治体の事情がある。全国の地方空港の赤字問題は深刻で、利用者促進と新規航空路線の誘致は大命題となっている。上海万博が開催された10年前後、春秋航空を誘致しようと全国の自治体関係者がこぞって上海詣でをしたのもそのためだ。全国の半分近い都道府県が同社に足を運んだという。

春秋側にとって就航先の選定は「自治体がコスト削減のためにどこまで協力してくれるかが条件」(孫部長)だった。古川康佐賀県知事は、上海線の誘致に佐賀空港が成功した理由について「佐賀県は早い時期から県庁職員が一丸となって空港セールスに取り組んできたことが評価された」と語る。その取り組みとして、佐賀空港では航空便利用者に限り最初の24時間のみ1000円でレンタカーを貸し出すキャンペーンや、県内および福岡県南西部で片道1000~2000円のリムジンタクシーの運行を実施している。低価格のフライトを享受するLCC利用者にとって、空港までの交通アクセスは課題だが、その解決に向けた地方空港の取り組みはLCCの集客を後押しする。こうした双方の持ちつ持たれつの協力関係も、春秋航空日本の「お金を使わないで何とかする」営業スタイルを支えているのだ。

就航後、佐賀・成田便の搭乗率は約70%と地元では順調な滑り出しとの声も聞かれるが、春秋航空日本の今後の見通しについては厳しい見方も多い。航空業界に詳しいバークレイズ証券の姫野良太氏は「成田を拠点としたLCCが軒並み苦戦するなか、需要を見込めない地方都市への新規就航はハードルが高い」と語る。オリンピック開催で今後さらに東京一極集中が進むことが予測されるなか、高まる羽田需要に対して成田発着組がどこまで対抗できるのか。低価格が売りのLCCのビジネスモデルは、運航回数と搭乗率にかかっている。13年唯一黒字を出したのは関空を拠点にしたピーチ・アビエーションのみというのが実情で、日本の航空市場におけるLCCのシェアは5%にも満たない。

(的野弘路、チャーリィ古庄=撮影)
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