一生懸命にやっても失敗や間違いを犯すことは誰にでもある。従業員が200万、300万円のマグロを仕入れて解体してみたら、お客様に出せない質の悪い物だったこともある。そのときは一言も怒ることはしない。失敗を通じて、なぜ悪いマグロだと見抜けなかったのかを考えることができれば次は失敗しなくなるものだ。
もちろん公私混同も許さない。経営においては経理を含めてすべてガラス張りにし、本社のオフィスも間仕切りはすべてガラス張りにしている。私が「すしざんまい」に知人を連れていっても自分で払うし、店の売上金に手をつけることは一切しない。報酬についても皆で決めているし、給与はパートを含めて他社より高い水準で支払うことにしている。
社員のボーナスも年に3回出しており、1回の額も30万~70万円の額を払っている。パートには社員になりたいと言えばいつでも正社員として雇用すると言っている。
従業員の教育では「言って教える」「やってみて教える」「自分で悟らせる」という3つを大事にしている。言って教えて格段に成長する人もいれば、やってみて教えるとパッと覚えられる人もいる。店長クラスになると、お客様が増えないとか、従業員の指導などで様々な悩みを抱えるものだ。
のたうち、苦しみ、悩み抜き、死を覚悟
あるとき、どうやっても売り上げが伸びず、会社を辞めたいと退職願を持ってきた社員がいた。そのときに私は「よくぞそこまでたどり着いた」と彼に話した。この言葉はまったく偽りのない心の底から出たものだった。彼が退職願を出すまでには、のたうち苦しみながら悩み、死ぬか生きるのかの瀬戸際に立たされ、家族を路頭に迷わせてしまう心配があるにもかかわらず、自らの責任を深く感じたものだとわかったからだ。人間は涙を流すほど悔しい状況に追いつめられたときこそ底力を発揮し、一生懸命に頑張れるものだ。
これは私自身も経験したことだ。戦闘機のパイロットを目指して中学卒業後自衛隊に入隊したが、眼を悪くしてジェット機に乗ることができなくなったときはお先真っ暗になった。そのときに思い出したのが母親の言葉だった。実家は私が4歳のときに父が死んで貧乏だったが「それでも五体満足でいられたのだから、このことを感謝できる人間にならないといけない」という言葉が私を支えた。