岡田真平(身体教育医学研究所所長)
年が明けた。信州の雪山に囲まれた長野県東御(とうみ)市にも新年がやってきた。オープンから20年。保健福祉複合施設『ケアポートみまき』の温泉プールには、おじいちゃん、おばあちゃん、子どもたちの笑顔があふれているのである。
ここは、老人ホームの横に25m×6コースの本格的な温泉プールが隣接している。歩行用の流水プール、温泉ジャグジー、サウナ、診療所もある。
老人ホームの入居者だけでなく、地元の住民、デイサービスの利用者、養護学校の子どもたちも利用している。みな、元気。からだもココロもホッカホカになるのだった。
「喜びは健康から、です」と、同センターに常駐している身体教育医学研究所の岡田真平所長は静かな声でつぶやく。柔らかく、落ち着きがあり、それでいて健康なからだ作りへの情熱に満ちている。
「ちょっとしたスポーツ振興ですけど、地域の人にはスポーツというコトバは使っていません。スポーツといった時点で無縁の世界と思ってしまう人もいるからです。“健康のため、からだを動かしましょう。”“楽しみましょう”って言うのです」
温泉ジャグジーの打たせ湯で恍惚とした表情のおじいちゃんがいる。温泉プールのそばには「杖置き」と書かれた筒状のかごが設置されている。スタッフがこんな微笑ましい実話を教えてくれた。
「杖をついて歩いてきた75歳くらいのおじいちゃんが、ここに杖を置いて、プールに入りました。水中は浮力があるので、気持ちよく、杖なしで歩けるのです。終わったら、そのおじいちゃん、杖を置き忘れて、家まで歩いて帰ってしまったのです」
シンペイさんこと岡田所長は41歳。東京大学ではバレーボール部の主将を務めた。
「体育会の活動の一番の収穫は、いろんな人たちとのつながりができたことです」
大学院では「身体教育学」などを学び、卒業後、地域の福祉活動や調査研究・運動指導に携わってきた。この福祉センターには開設時から関与している。目指すは、からだ作りの「保健」と「医療」「福祉」の三位一体。
シンペイさんは、障害者と健常者がスポーツを通して交流する活動もしており、地元で「ボッチャ」の交流大会も開いている。ボッチャはパラリンピックの正式競技で、目標のボールにボールを投げてどれだけ近づけるかを競うものだ。
シンペイさんが説明する。
「からだに障害があっても、スポーツに触れることで明るくなれるし、社会とつながることもできるのです。地方は人のつながりが深いから、実は孤立もしやすい。スポーツ的な活動はいいコミュニケーション媒体ともなるんです。スポーツを通して、いきいきしてもらいたいのです」
シンペイさんの新春の夢は、この東御市の湯の丸高原(標高約1700m)に、2020年東京五輪パラリンピックに向けた高地トレーニング用プール施設を誘致することである。実現すれば、競泳選手の強化トレーニングだけでなく、トップ選手と地域の人々の交流も生まれることにもなる。
「日本からメダリストが生まれることもうれしいですが、地域の人々もトップレベルの選手から刺激を受けることになると思います。もしも、ふれあいの場ができれば、とくに子どもなど感激して、その人生が豊かになるでしょう」
目がやさしい。湯の丸から「センターポールに日の丸を!」。いや日本のセンターエリアに笑顔の輪を、である。