大半の格付会社は、企業などから依頼を受けて格付けを行い、そこから得られる手数料を主な収入源としています(※1)。依頼主のために格付けを実態より高くすることがあれば、格付け情報を参考にする投資家を騙すことになります。こうした問題が起きないように当局が監督することには一定の合理性があります。

一方、格付会社は国債への格付けも行っています。主要先進国については依頼に基づかない格付けであるために「勝手格付け」とも呼ばれています。国債への格付けは、債券を引き受ける民間側の需要も高いことから行われているものですが、格付けを受ける国の政権や当局者から、たびたび攻撃されています。

イタリアでは11年と12年のS&Pおよびフィッチによる国債格下げに関連して、格付会社が誤った情報を流布し、市場を操縦した疑いがあるとして、検察当局が担当アナリストや元経営者を起訴しています。

また米国では11年8月にS&Pが国債の格付けを最上位の「AAA(トリプルA)」から「AA+(ダブルAプラス)」へと1段階格下げした際、オバマ大統領が「格付会社がなんと言おうとも、われわれはトリプルAの国だ」との声明を発表する騒ぎになりました。米連邦政府の司法省は、13年2月、数ある格付会社の中でS&Pだけを相手に、サブプライムローン関連の金融商品を不当に高く格付けし、金融機関が損失を被ったとして、民事制裁金の支払いを求める訴訟を起こしました。

日本では2002年5月、ムーディーズが国債格付けを「Aa3」から一挙に2段階下げて「A2」とした際に、担当者が衆議院財務金融委員会に参考人招致されたり、当時の財務官(黒田東彦氏)が格付会社に対して何度も公開質問状を送ったりと、大変な騒ぎになりました。その後ムーディーズは、格付けを引き上げ、08年以降、日本国債の格付けは「ダブルA」水準に復帰していましたが、この12月、ふたたび「シングルA」レンジに引き下げたのです。

国債の格下げは、格付会社という一民間企業による一国の政府の債務履行能力の評価の引き下げですので、反発を招きやすいものです。国の威信を傷つけられたとか、財政運営能力を疑問視されたという風に受け止められがちだからです。しかし、だからといって格付会社を締め付けようとすることは、言論の自由を制限するのに等しい行為です。