5.部下を叱る、褒めるとき最も効果的な方法は?

部下の叱り方に悩む上司も多いですね。「やさしく扱ってやるか、徹底的に叩くか」、両方を使い分けることは効果的。いつも厳しい上司がたまに見せるやさしさ、そのギャップが部下の心を掴みます。そもそもマキアヴェリは、畏れられる君主をめざせと言っています。中途半端にいい上司よりも、怒らせたら「怖い」と畏れられるのは、管理職としてむしろプラスに働くでしょう。

民衆というものは、やさしく扱ってやるか、徹底的に叩きつぶすかのいずれかである
内藤さんは、中学生の頃から『君主論』を愛読。『戦術論』『ディスコルシ-ローマ史論』などマキアヴェリのほかの著作も読破。

ここで間違ってはいけないのが、「厳しさ」と「罰」は別だということ。大抵の人は罰を与えられることを嫌います。理想を言えば、罰は与えないほうがいいですが、悪いことをしたのに罰しないわけにはいかない。そのときは、マキアヴェリが指摘するように「手短に、一気に行う」のが上司として正しいやり方です。「あのときも、おまえは」などと、いつまでも蒸し返して叱るのは何度も罰を与えるのと同じです。

罰というのは、思いつきでいきなり与えるものではない。「このルールを破ったら徹底的に叩く」と、前もって明確化して伝えておき、実際に部下がそのルールから外れたなら罰すればいいのです。そうすれば、「部長は口だけじゃない」と率先してルールを守るし、罰せられても上司を恨むことはない。逆に「まあ、いいや」と叱ったり叱らなかったりすると部下は学習せず、間違いを繰り返します。さらに、明確化していないことを罰するのは、ただの理不尽。やめたほうが賢明です。

加害行為は人々がそれをあまり味わわず、したがってあまり傷つけられないように一気に行なわれなければならず、これに対して恩恵は人々がそれをより良く味わうように少しずつ与えられるべきである

逆に褒めるときは、マキアヴェリが「恩恵は少しずつ与えられるべき」と記すように、小出しにするほうが相手の喜びは大きくなります。

これは心理学でも「スティーブンスのべき法則」で証明されています。わかりやすく言うと、20万円のボーナス1回と10万円のボーナス2回だと後者の喜びが大きいのです。

また、褒めるのも叱るのも対象の部下と2人だけのときにすべきです。みんなの前で褒めると、ほかの人は嫉妬や恨みを持つ。これを心理学用語で「暗黙の罰」といいますが、1人を褒めることは、暗にほかはダメと叱責しているのと同じですから。

※言葉の出典は『使えるマキャベリ』(内藤誼人著)

内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。アンギルド代表取締役社長。立正大学客員教授。実践ビジネス心理学を中心に、企業へのコンサルティングなども行う。著書に『使えるマキャベリ』など。
(戌亥真美=構成 澁谷高晴=撮影 Getty Images=写真)
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