客に「二択」問題を出し続ける
夢や理想を人質にとったような形で、強引に契約を迫るのはしてはいけない行為だが、一般のビジネスでも、自らの望む契約をさせるために、対立概念を用いて相手を説得することはよく行われる。
たとえば、語学スクールの受講契約を促す場合。
まず客が将来、どのようなスキルを身に着けたいのかを尋ねる。相手の答えが「語学を堪能に話して、ビジネスにいかしたい」という「理想」だったら、現在のスキル状態を、テストなどを通じて現状を把握させて、どのような学習プログラムを組めばよいのかを提案する。
では、学習塾に子供を通わせようという親にはどう接するか。
最初に子供の親に「どの教科を何点位あげたいのか」「志望学校はどこか」を尋ねて、子供に学力診断テストを受けさせる。その点数から、今の実力を把握させて、抱いている希望と現実がいかに乖離しているかを示し、さらに原因と結果の関係を使い、苦手な点(原因)を指摘する。
そして「その弱点を克服すれば、よい結果をもたらせる」という話を展開しながら、具体的な契約話を進めていく。2つのことを比較し、その違いを明確にして話すことで、わかりやすく、かつ説得力のある説明ができる。
営業などでも自らの販売する金融商品の特徴を話すのに、まず「なぜ、儲かるのか」を話す。当然、リスクのない金融商品はないので、「どうなると損をしてしまうか」といった点もあえて公開し、相手に自分が信用するに足る人物だと思わせた上で、「損得」の2つに分けて話せば、相手に商品を売り込み理解やすくなるだろう。
また、新製品を販売・展開するにあたっては、それが消費者にとってどう受け止められるのかを知る必要がある。私は過去に商品の市場調査のモニターをしたことがあるが、リニューアルした缶コーヒーの試飲などをする際に、次のような項目を尋ねてくる。
2つのコーヒー(これまでのコーヒーと、新製品のコーヒーか)を飲み比べて、どちらが「甘いか、苦いか」「酸味はどちらが強いか、弱いか」……。ある商品のパッケージを見せられて、「明るく感じるか、暗く感じるか」。この商品を150円で販売したら、「高いと感じるか、安いと思うか」など、その商品が消費者において、どのようなポジションにあるのかを知るために、対立概念を用いてくる。
こうして物事を2つに分解し、どんどん考えを深堀りさせていくことで、重大なポイントをあぶり出して、緻密な商品の販売戦略をたてられるというわけである。
ただし、先にも述べたように、この思考法では、一方を善とし他方を悪とする。
当然、人は悪いままでよいと思う人はいないので、自然とこれを排除しようとする心が生まれる。先のオーディション商法でいえば、俳優志望の私にとって、演技の勉強をして夢に向うのが「善」となり、それをせずに夢を失うのが「悪」となる。
当然、今後、芸能の仕事をしていく上で、悪は排除されるべきものである。すなわち、対立思考で選択を迫られている段階では、実は、一方の道しか進めないようになっていることが多い。
この対立思考を使うことで、自らの意図する方向へ誘導できるが、この手法を強引に押し進めると、悪質勧誘とみなされるので、使用する際には注意が必要だ。