大企業に定年年齢の引き上げや再雇用制度を拡充する高齢者活用の動きが加速している。顕著なのが、証券業界や住宅・不動産業界の取り組みだ。証券最大手の野村証券は2015年4月に、65歳で定年、希望すれば最長70歳まで再雇用する営業部門の新職種を設ける。住宅業界でも、戸建て住宅最大手の積水ハウスが同年4月、全グループ企業でこれまでの定年年齢を60歳から65歳に延長する。
証券、住宅・不動産といえば、かつては「生き馬の目を抜く」業界として、営業職の使い捨てもいとわぬと酷評された業界だ。しかし、これら業界も近年は営業基盤の顧客の高齢化が進み、かつての売りっ放しの営業から顧客が保有する株式などの金融資産や住宅・不動産の管理・運用を重視した、資産管理型のストック重視のビジネスへの転換を強めざるをえなくなった。その意味で、高齢者活用は顧客と長年築いてきた関係や豊富な経験を生かし、顧客をつなぎ留める戦略的な要素が強い。
実際、証券業界では野村に先行して、大和証券が昨年10月、営業担当者を対象に70歳まで継続雇用する制度を導入。住宅業界も大和ハウス工業が昨年4月、65歳定年制に移行し、今年4月、60歳以降に6~7割にダウンする給与について、成果次第で60歳前の水準に昇給できる制度も設けた。
大企業の高齢者活用の背景には、13年4月に施行された改正高齢者雇用安定法が段階的に65歳まで希望者に継続雇用を義務づけた点が大きい。さらに、「団塊の世代」最後の1949年生まれが65歳を迎え大量リタイアが一段落し、企業の高齢者雇用に弾力性が生まれてきた背景もある。一方で、積水ハウスが11月13日発表した中期経営計画でリフォーム市場などストック需要を重視する方向を打ち出すなど、高齢社員の活躍の場が広がってきたのも事実だ。これまでは製造現場を中心に技術の伝承が中心だった高齢者活用も、ストック型ビジネスでの戦略的な高齢者雇用が一段と広がりそうで、高齢者雇用は転機を迎えつつある。