本来なら一番目立つのは映画スターの植木だろう。だがシャイな植木は、出番がくるまで片隅の椅子に座ったまま身動きもせず、近寄りがたい静謐なオーラを放っていた。そのためか、会場のそこここに話の輪はできるのだが、笑い声は低く遠慮がちだった。

そこへ少し遅れて到着したのが椎名である。お詫びの言葉を口にし、大きなジェスチャーでにこやかに挨拶すると、一座がわっと盛り上がり、そのままにぎやかなパーティが始まった。椎名の登場とともに、空気が一変したといってもいい。途中、冷やかしの声が飛ぶと、椎名は朗らかに天を仰いで大げさにこけるマネをした。

プライベートな場とはいえ、1兆円企業のトップが、こうまであけっぴろげに人と接するのか――。そのときに感じた驚きは、20年経ったいまも薄れていない。

ヘリで駆けつけた盛田昭夫

「そうなんだ、そこだよ。僕はタケオより2歳年上だし、大学や専攻、選んだ仕事もまったく違う。特別に付き合いが古いというわけでもない。なのに彼は、べらんめえ調で『おい、カズオよ……』と僕のことを呼び捨てにして、ときには頼みごとを持ってくる。不思議なことに、そうやっていわれると親近感が高まって、どんな頼みでも聞いてやりたくなるんですね(笑)」

野田が愉快そうに振り返る。

2人の出会いは案外遅く、常務だった椎名が人事担当になった65年のことだ。立教大学教授だった野田は当時日本IBMの管理者教育講座の社外講師をつとめており、新任の担当役員として引き合わされたのだ。初対面の椎名は垢抜けたスーツ姿で現れ、容姿は精悍、話題づくりも滑らかで、「経歴から想像していたよりもはるかに粋で、魅力的だった」と野田はいう。

「要するに『快男児』そのものなんだ」

野田の定義によると、「快男児」の要件とは「知的で、弁が立ち、愛嬌がある」の3点だ。なかでも大事なのは「愛嬌」だと力説する。

「タケオには天性の愛嬌がある。本人は大真面目にやっているんだが、周囲から見るとどこかおかしい。そういう滑稽さがあるから、大勢の人が彼に惹きつけられるんだと僕は思う」