夢を掴み取るために『孫子』を学べ!

一方で、先の(1)の恋愛態度のように「自分が確実にできることだけに挑戦する」人生態度では、手に入るものが予測の範囲でしかありません。なぜなら大きな目標に手を伸ばさず、目標を小さくする(最愛の人を諦める)ことで勝敗を高めているからです。

この連載で孫正義氏は、野村証券に在籍し金融のプロだった北尾(吉孝)氏を引き抜いてソフトバンクの金融面を強化したことをご紹介しましたが、氏はリスクを抑えるために、目標を小さくしたのではなく、目標へのアプローチ能力を最大限に高めてくれる人材を抜擢して勝負したのです。リスク回避に関する考え方は、孫子の基本でありながらその活用法は成功者と、そうでない人では極めて大きな違いがあることがこの事例からも、わかるのではないでしょうか。

連載の第1回「なぜか苦境を跳ね返す人、飲まれてしまう人」(http://president.jp/articles/-/13762)でも解説しましたが、目標と問題解決力は一つのセットであり、このバランスが正しく取れている人と組織が成功を積み上げていくことになります。小さな賢さで孫子を読むと、目標をどんどん小さくして、何もしない状態で自分が勝てること、失敗しない小さな勝負にだけ手を伸ばす、という活用の仕方になってしまいます。

これは問題解決力を高める努力をしない代わりに、野心的な目標やより大きな幸せ、豊かさを諦めた人生です。勿論、失敗はしないでしょう。そのためにわざわざ目標を小さくしたのですから。しかし、これが本当に充実した最高の人生であるかと言えば、疑問はやはり残ります。挑戦を諦めたことで、振り返れば後悔が募る生き方ではないでしょうか。

歴史や、ビジネス界での成功者が使っている孫子の方法は、目標と問題解決力がセットであれば「問題解決力を向上させる」ことで、大きな勝負さえもリスクを減らして勝つことを目指した道です。これにより、成功者は自分の人生を最大限生きながら、リスクを減らし、勝率を高めているのです。事前に勝利の確率を高めることは、目標を諦めて小さくするのではなく、解決策を洗練させ強化することで実現されているのです。

兵法書『孫子』は約2500年前の呉の国で、将軍を務めた孫武が残した書籍ですが、呉王から隣国の楚を攻めて勝つことを依頼された時、孫武は「大それた目標は諦めて、もっと小さな目標にしましょう。その方が勝率も上がります」とは言いませんでした。確実に勝てる時まで、自軍の軍備や政治を整え、敵が疲弊する戦術を繰り出して絶好の機会を作り上げ、あっさりと大目標を成し遂げたのです。

私たちの人生は一度しかありません。『孫子』が勝者を支える最高峰の戦略書であるならば、それを学ぶ私たちは、人生で本当に望む目標に手を伸ばすべきであり、心から望む勝利と幸せを、リスクを減らしながら手に入れるためにこそ孫子に学ぶべきなのです。

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