中央政府からの分離独立を目指す動きが活発化
今、世界は「国家とは何か」ということを考える生きたエグザンプル(実例)に溢れている。イスラム国の問題もそうだし、イスラム国と激しく対峙しているイラク北部のクルド人自治区の独立問題もそうだ。
クルド人は国家を持たない世界最大の民族であり、トルコには約1400万人のクルド人がいる。クルド人自治区の独立問題が中東の大国トルコに波及すれば、中東情勢は大混乱に陥る。まさしく「国家とは何か」という問題を呼び起こしかねない。
ヨーロッパでもスコットランドに続いてスペインのカタルーニャで独立の是非を問う住民投票が計画されるなど、中央政府からの分離独立を目指す動きが活発化し、方々で国家のあり方が問われている。
ヨーロッパの場合、EUという大きな枠組みが独立派の人々の精神安定剤になっている。EUがあれば人口100万人、あるいは30万人の小さな国でもやっていけるということで、独立運動につながりやすいのだ。
国家が世界の中で一定の力を発揮するためには“規模”が重要というのが、国民国家万能時代の常識だった。たとえば今は7つに分裂して互いに仲が悪い旧ユーゴスラビアの国々も、チトー時代は1つにまとまっていることで国家として世界に存在感を示していたし、国民のプライドもそちら側にあった。
重商主義(輸出産業を育成して輸出超過によって国富を増大させようという経済思想)の観点からも、外資に攻め込まれたときに、国内市場にある程度のスケールがないと不利とされた。
ところが今や、世界で一番繁栄している国の一つがスイスである。スイスは人口700万人程度しかいないし、国内市場もほとんどない。それでも世界的なグローバル企業を数々輩出しているし、国民一人当たりGDPは世界第4位だ(2013年データ)。
EUには加盟していないが、シェンゲン協定(ヨーロッパの国家間において、国境検査なしに国境を越えることを許可する協定)に入って、国境の移動の自由を確保している。
やはりEU非加盟のアイスランドなどは人口約30万人で、神奈川県の平塚市より少し大きい程度であるが、何の不都合もなく立派に国を張っている。ちなみに1992年に国連に加盟したサンマリノは人口3万人、パラオ(93年国連加盟)は人口2万人だ。
人口12億人の中国も2万人のパラオも国連総会では同じ一票を持っていて、世界のガバナンス機構ではそれぐらい馬鹿げた「一票の格差」があるのだ。中国が分裂して「中華連邦」が国連で10票も持つことになったら怖い。だったら一つにまとまって自分の裃につまずいているほうがいい――。冗談半分、半分は本気で私はそう思っている。