草刈り場となる首都圏の小口市場

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全面自由化に進むエネルギー改革

当初、今夏には小委員会の報告書をまとめ、来年の通常国会に関連法案を提出し、電力と歩調を合わせて16年から全面自由化の運びと見られていた。しかし、所管する資源エネルギー庁のガス市場整備課は「来年の通常国会への法案提出で動いている。ただし成立しても、政省令の改正などを考えると、施行まで1年という時間では短すぎる」という。このためガスの全面自由化は早くても17年となりそうだ。

もちろん、都市ガス会社サイドも指をくわえて見ているわけではなく、全面自由化への対応策を打ち出している。

その一つが電力事業の強化で、東ガスは国内発電事業の規模を11年の200万キロワットから20年には300万~500万キロワットへ拡大する計画。今年4月に10人からなる事業革新プロジェクト部を立ち上げて、電力販売の戦術を練っている。大ガスも足元のガス事業が飽和状態ということで電力事業に積極的で、13年度末に国内外合わせて320万キロワットだった発電事業の規模を20年代に600万キロワットへ拡大する。

結局、こうした動きが強まるとエネルギー市場はどう変わっていくのか。いち早く自由化に動いた欧州の事情に詳しい、プライスウォーターハウスクーパースの電力システム改革支援室の狭間陽一室長は次のように話す。

「英国では98年に電力とガスの小売り参入が全面自由化された。その後に起きたのが、一つの会社で電力とガスの両方をセットで販売する『デュアル・フューエル』。そして、料金を割り引いたり、クーポンを付けたり、さらには電話やインターネットなどのサービスを加えるなど、さまざまなメニューが登場した。日本でも同じような電力とガスの融合が進んでいくだろう」

ガス、電力ともに稼ぎ頭は小口の家庭向けで、「パレートの法則が当てはまる」というのが関係者の共通認識。つまり、大口の産業用は販売量の8割を占めるが、自由化による競争激化で採算が厳しく、残り2割の小口で利益の8割を稼いでいるのだ。東電のガス事業の営業収益1207億5300万円に対して、営業利益が3億7000万円に過ぎないのも大口向けだから。

そうなると、がぜん注目されてくるのが、人口減少社会に移行したいまでも人口流入でパイが増えている首都圏、それも東京ということになる。東ガスは1017万件もの家庭用の顧客を持ち、これまで地域独占によって“金城湯池”を築いてきた。儲かる市場を攻めるのは経営の鉄則。全面自由化で地域独占という“外堀”が埋められた暁には、草刈り場となる可能性が大きい。

この点では東電も同じ境遇にあるのだが、同社はいま中部電力との間で燃料調達・火力発電事業での包括提携の詰めを行っている。大きな目的の一つが共同でLNGの調達に臨んで交渉力を高め、安価な価格で調達をすること。「日本は世界最大のLNG輸入国で、この2社だけで輸入量全体の4割強を占める。それだけスケールメリットがあるわけで、電力料金での競争力も高まる」と前出の一般紙の記者はいう。