「部下を信頼しきる」リーダーシップ

昭和シェル石油 香藤繁常会長兼CEO

1990年の湾岸戦争時、乱高下する原油の先物取引を全面的に任せてくれたのが担当役員の常務だ。天性のリーダーシップを持った彼は、部下を信頼しきることで、その能力を引き出した。ある意味では「死なばもろとも」といえる姿勢は、私に強烈なモチベーションを与えてくれたのである。年齢も10歳以上違うことから、彼は私にとって手本とすべき上司だった。

そんな常務には、遊びの面でも教わることが多かった。とにかくゴルフが上手で、80ぐらいのスコアで回る。プライベートでも一緒にプレーさせてもらったが、当時の私の腕前は110~120程度。明らかに実力が違うので「少しはハンデをもらわないとアンフェアではないですか?」と抗議した。すると彼は「ゴルフは自己責任のスポーツだ。ルールは同じだし、使うクラブもほとんど差はない。しかも、君は若く、運動神経も悪くない。安易にハンデを与えてしまえば、上達の限界をつくってしまう。そんな弱気なら最初からやるな!」とはねつけられた。

発奮した私は、週末になると朝、昼、夜と、1日に3度、練習場に足を運び、ひたすらボールに向かった。合計で700球、ときには1000球も打っただろう。まず、スイングを身体で覚え、それからより理想的なスイングに修正していく。脇目も振らぬ努力の甲斐があって、人並み以上にうまくなることができた。いまでは、アベレージ70台後半で回れる。

このように常務とは、仕事でも危機を共有できたし、ゴルフでも鍛えられた。何ごとにも明確な目標と時間軸を定めた達成プロセスの管理が必要だとわかった。いま振り返っても、かけがえのないサポートと指導を受けたと感謝している。ときとして彼が、私に厳しい対応をする理由が当時はよくわからなかった。しかし、自分が経営者の立場になってみると「なるほど」と納得することが多い。それは仕事や遊び、ひいては人生に取り組む姿勢を叩き込んでくれたのだといっていい。