日本の賃金は定年までを前提に設計

また、日本の人事・賃金制度が、男性が新卒で入社し、定年まで勤め上げることを前提に設計されてきたことも見逃せません。年功による昇給制度や生活関連の諸手当がそれです。

毎年の賃上げ率が10%も15%もあった高度成長期、賃上げ率10%は仕方ないとしても、全社員の基本給を10%上げることには、会社側は躊躇しました。なぜなら、基本給を一律で上げてしまうと、それ以外の人件費にもさまざまな影響が出ます。

そこで、家族手当や住宅手当のかたちで支給すれば、残業単価を上げずに済みました。また、賞与は基本給の何カ月分という計算式でしたので、賞与への影響も抑制できます。退職金も基本給に勤続年数ごとの係数を掛け合わせる制度が主流でしたので、退職金負担増大にも一定の歯止めがかかります。

家族手当や住宅手当であれば、世帯主であることなどの条件をつけ、支給対象者を限定することができます。男女雇用機会均等法改正の前でしたので、露骨に「条件を満たす、男子社員に支給する」という規定を設ける会社までありました。

その頃は、若い男性社員を採用し、できるだけ長く、できれば定年まで働いてもらうことこそが人事の重要テーマでした。女性社員は結婚すれば退職するというという時代でもありましたので、とにかく男が結婚して、奥さんが専業主婦になっても生活していけるようにして、会社を辞めさせないことが優先課題だったのです。