処世術[2]新事業ハシゴをはずされ左遷

せっかく新事業の立ち上げに奔走し、新しい事業部がスタートするというのに、功労者のあなたを待っていたのは関連会社への出向人事だった……。サラリーマンには珍しくない蹉跌です。

官兵衛なら、黙って左遷を受け入れるでしょう。不平不満を漏らさず、粛々と新たな職場で与えられた仕事をこなし、きちんと成果を挙げたはずです。さらに左遷そのものを、自己を見つめ直し、バージョンアップさせる機会とすると思います。

官兵衛の故事では、「有岡城の幽閉」がそれに当たります。織田方から毛利方へ寝返った主君の小寺政職に翻意を促すため、小寺の盟友である荒木村重の居城有岡城に向かい、そこで捕らわれ、地下牢に幽閉されます。

このとき、官兵衛がもし「織田を捨てて毛利方につく」と言えば、おそらくすぐに牢から出され、荒木氏の軍師として用いられていたでしょう。戦国時代はそのような寝返りは日常茶飯事で、それで咎められることもなかったのです。しかし官兵衛はあえてそれをせず、1年の間、牢に留まりました。

大事なのはここです。主君に裏切られても、自分は裏切ることがなかった官兵衛は、九死に一生を得た後、「決して人を裏切らない男」という評判を得ます。これは当時の武将としては稀有なことでした。その評判が、のちの活躍の基礎となりました。

官兵衛は秀吉の軍使としてさまざまな敵と交渉し、その多くを戦わずに降伏させています。それができたのは、敵方からも「決して裏切らない男」「彼の言うことなら聞いてもいい」と信頼されたから。官兵衛は幽閉という悲惨な体験を通じて、信用を得たのです。

出世することを心の支えとして働いているサラリーマンにとって、左遷は非常に辛いことです。しかし抵抗しても無駄ですし、文句を言っても状況はまず変わりません。そもそも、地方の支店であれ子会社であれ、左遷された職場であっても、そこには仕事があり、そこで働いている人たちがいます。新事業を立ち上げるくらいの実力があれば、必ず新しい職場でも、良い仕事をして成果を挙げられるはず。世間から左遷と見られても、そこで腐らず、努力して成果を出せば、普通に働いているだけでは得られない信頼が身につくはずです。