処世術[3]予算オーバーで資金が払底
とあるデベロッパーが、社運を懸けた大型の再開発事業を進めているとします。ところが、折からの震災復興ブームとアベノミクスの余波で予想外のコストアップに見舞われ、完全に予算オーバー、会社の経営まで揺るがしかねない事態になってしまった。はたして予算の目処もつかないまま建設を続けるべきか、それとも大幅に開発規模を縮小して安全策をとるか……。
こういうとき、官兵衛が責任者だったらどう判断するでしょうか。
事業を成功させるうえで何よりも大切なのは、その事業がうまくいけば将来どうなるのかという「ビジョン」です。街づくりのビジネスであっても、もし官兵衛であれば、その事業が成ったあかつきの街の姿をいきいきとしたビジョンとして経営陣はじめ関係者に語り、彼らを感動させ、自ら進んで資金や人、モノなどの経営資源を事業に提供するよう持っていったと思います。
官兵衛の語る「ビジョン」の力が存分に発揮されたのが、秀吉を天下人に近づけた「中国大返し」の逸話です。本能寺の変で信長が死んだとき、関東方面を任されていた滝川一益は、この機に乗じて攻撃を仕掛けてきた北条氏に攻められ敗走。信長の三男・信孝と丹羽長秀の軍では脱走兵が続出しました。同じことが、備中高松城を攻略中の秀吉軍に起きてもおかしくはない。しかし現実には、秀吉軍は士気の高いまま京都へ向かい、光秀を打ち破ります。何が違ったのでしょうか。
動揺する秀吉に官兵衛が献策したのが、中国大返しの戦略でした。これを受け、秀吉のマインドは一気に「天下取り」へチェンジ。雑兵らに対しても「将は大名に、兵は将になれる」と励まします。これにより、兵のモチベーションは爆発的に上がります。
現代のビジネスでも、官兵衛なら同じことをするでしょう。完成のはるか手前で資金が底を尽くという最悪のピンチであっても、「建設を続ければ、こんな街ができる。完売すればこれだけの収益が見込める。たくさんの住民を喜ばせ、世界に誇れる新しい街づくりのモデルを生み出すことができる」と、輝ける未来のビジョンを描いてみせ、それを経営者から現場の社員、投資家にまで信じさせてしまう。それさえできれば、一気に形勢を逆転することが可能なのです。