アクアビットと鱈

北風吹いて、わが家で鍋の出番が増えてくると、がぜん人気急上昇してくるのが、鱈だ。

この魚は世界的にも需要があるようで、ノルウェーでは、棒鱈にしたものを輸出していて、それがスペイン、ポルトガルあたりで民族好みの料理に変身している。日本でも、九州や東北の山間部では干物の料理が伝承されていて、これが手間のかかる分、特有の、えもいわれぬ魅力を醸している。

海産物を乾燥させるのは、保存と輸送のための知恵であろうが、煎海鼠(いりこ)に代表されるように、わざわざ干して、それを水で戻し、じっくりと調理したほうが、とろとろ、ほろほろの食感と風味が滲み出してくる例もある。ルーテフィスクも同様ではないだろうか。

その昔、欧州を放浪していたとき、デンマークから列車でノルウェーへ移動した。列車がそのまま船倉に積み込まれ、ドアがロックされて乗客は列車内に閉じ込められるのだが、若い連中はおとなしくなんかしていられない。私の前の席では青年3人が大盛り上がりで、スコール、スコールと叫んではグラスをあおっている。何を飲んでいるんだろう、とのぞいたら、腕を引っ張られ、肩を叩かれて、スコールをやれ、ときた。

そそがれた透明な液体を口にふくめば、たちまち拡散するスパイシーな香り。キャラウェイにちがいない。ジンに似ているが、もっとシンプルで、森をわたる風のようにさわやかに鼻腔を抜け去る。ボトルには「AALBORG」とある。「オールボー」と彼らは発音していた。これがアクアビットとの邂逅で、それはデンマーク産であった。

後で知ったのだが、アクアビットはノルウェーでも生産されている。彼らがデンマーク産を飲んでいた理由は、オスロに到着して判明した。税吏が彼らのリュックを強制捜索、ごろんごろんと大量の瓶が出てきた。免税品をナイショで持ち帰ろうとしたらしい。しょんぼりとする姿に同情しきりの私であった。