プレミアムの仕組み

現にそこの器に注いでいるのに「幻の酒ですから」などと言う店員がいる。幻とはこの世に実体のないものをさすのであって、地酒の醸造元が廃業し、記憶のなかにしか存在しなくなった場合などに使うのだが、そういうやかましいことを口にすれば、煙たがられるだけなので、黙って、のむことにしている。

幻ではなく、あるにはあるが、稀少で、プレミアム価格がついているため、おいそれと手の出せない酒がある。そもそも、税金までかけられて、販売を管理されているはずの酒類であるのに、なぜ、そんな現象が起きるのか、素人の私にはどうも理解できない。

「森伊蔵」という芋焼酎を初めて口にしたのは、1998年12月22日であった。その存在はそれより5、6年前、鹿児島の某教育関係者から、聞いて知っていた。

「酒蔵の名称を変えたとたん、人気が出て、めったに手に入らなくなりましたが、いずれ贈りますから。忘れた頃になるでしょうけど」

むろん忘れるはずもなく、待ち続けていたのであるが、たまたま城山観光グループの会長だった保直次(たもつ・なおじ)さんに会う機会があり、城山観光ホテルで勧められるまま河豚会席をいただいていると、さりげなく出てきたのが「森伊蔵」で、やっと出会えたと感激していたら、

「そんなにお好きなら、お送りしましょう」

と、こちらはその翌週、ちゃんと一升瓶が2本、わが家に届けられた。

初めて飲んだ芋焼酎が「伊佐美」で(第20回参照 http://president.jp/articles/-/13487)それから丸12年。その間、薩摩、大隅、日向と“芋遍歴”を重ね、体臭まで「芋臭い」と家族に辟易されるまでになった身にしてみると、この「森伊蔵」はどことなくシングルモルトを想わせ、芋特有のねっとりと鼻腔にからみつき、咽喉をつんと刺激する牛の蹴りのような野趣に欠けるような気がした。上品であることはまちがいないが、私のごとき酔いどれオヤジはご相伴に与るのが精一杯のタカネノハナと断じたのであった。