バーボンとクラブ
蟹が料理にちょくちょく出てくる時期となった。ちょうど上海蟹も旬である。
その昔、米国ヒューストンへ仕事があって出かけた際、こちらではソフトシェルクラブという上海蟹そっくりのが流通していて、たまたま仲間と入ったレストランでちょうどシーズンだし、これにしよう、と決まり、うっかり私も食べてしまった。
それというのも、この店では蟹をフライにしていたので、あの螯(はさみ)や甲羅がパン粉に包まれ擬装されていたせいもある。
テキサスへ来たのだから、バーボンだろう、と私は日本では希少でなかなか出会えない「ファイティング・コック」を注文した。
バーボンも岩川隆さん(第10回参照 http://president.jp/articles/-/12934)に教わった。ざっと40年ほど前、新宿にバーボン専門クラブがあり、岩川さんは常連で、まだ学生であった私を連れて行ってくださり、
「ハイボールでも飲むかね」
そんなもの初耳で、出てきたメスシリンダーみたいなグラスにしゅうしゅうと泡立つ飴色の液体を、これがそれかと口へ運べば、なんとも爽やかな草原の香りが拡がった。
岩川さんは米ボストンへ出張の折、バーで雑談しているうち、造船、海運など日本の産業から、文学にまで話題がおよんで、
「英国にはホーンブロワーなど壮大な航海小説があるのに、残念ながら、日本にはない」
などと、吐露したところ、耳にした店主が、
「こんなバーボンがありますよ」
出したのが「オールド・フォレスター」であった。以来、岩川さんはこれを愛飲されるわけだが、そのブランドがホーンブロワーシリーズの作者C・S・フォレスターの氏姓と同じスペルであることはいうまでもない。
ハイボールを契機に私もバーボンを遍歴したものであるが、「オールド・リップ」、「エズラ・ブルックス」そして「ファイティング・コック」と12年以上の長期熟成タイプに心奪われてゆくのであった。