もっともっとお金が欲しい。稼いでも稼いでも欲しいものに追いつかない。それが「欠乏」の神話です。もしもそれが生きるうえでの真の欠乏であるならば、出家したお坊さんのようなお金と無縁の生活というものは成り立たないはずです。人類はこれまで過剰な消費によって資本主義社会を発展させてきました。しかし、あらゆる資源が無限だと信じられていた時代が終わり、それに気付いた人々は持続可能な社会をつくるために行動を起こしているのです。これからの資本主義はサービスの交換にもっと重点が置かれるでしょうし、お互いを尊重し合う、人間を大事にする産業も新たに創出されていくでしょう。

日本の若者が車や新築の一戸建てを買わなくなったという話を聞きます。それは平均年収が漸減しているという経済的な事情によるのかもしれません。でも逆にいえば、どんどんいろんなものを持とう、持たなければいけないという時代が、今まさに終わろうとしている、その兆しに気付くチャンスなのです。「欠乏」の神話を打ち破り、あなたが本当に納得できるお金の使い方をしたとき、「充足」の感覚は、あなたを新しい世界へ連れていってくれます。

個人だけではなく、企業も新しく生まれ変わっていきます。経営者は持続可能な経済に変えていくためのビジョンを持たなければいけません。そして地球に対して責任を果たしていることを消費者に訴え、消費者の考えも変えていく必要があるのです。事実として、持続可能な社会創出にコミットメントを表明している企業は、そうでない企業よりも優れた業績を挙げています。日本においても例えば三井物産や三菱商事といった総合商社が森林を保有し、保全活動を行っています。製品運搬の環境負荷を下げるために自社鉄道を運営したイケア、消費者に製品リサイクルを積極的に呼びかけるパタゴニアなどの取り組みは世界的にも広く認知されています。

日本の経営者が世界を次の時代へと導いていくための大切な役割を担っているのは間違いありません。なぜなら私にお金の正しい使い方を教えてくれたのは、ほかでもない、80年代の日本人だったのですから。

日本のファーストレディである安倍昭恵さんと先日お話しさせていただきましたが、彼女は「充足」を知る、とても素晴らしい方です。私たちの出会いはお互いにとって、刺激的で充実したものであったと確信しています。彼女が優しさと知性を持ち合わせた女性であることは皆さんすでにご存じでしょう。そしてきちんと自己表現ができる自立した女性でもあります。だからこそ彼女は、パートナーである安倍晋三総理大臣と異なる考えを持っていても、何を恐れることもなくメッセージを発することができるのです。

これからますます重要になる女性の解放と活躍について、人類が直面している地球規模の経済・環境の問題について、これからの世界のあり方について、そういったさまざまなことについて語り合う中で、昭恵さんは私の話にとても注意深く耳を傾けてくださいました。私たちはとても深い部分で共感し合えたと思っています。

(唐仁原俊博=構成 原 貴彦=撮影)
【関連記事】
「お金に愛される人」の5つの習慣
何を買うかよりも、何のために買うかを大切にしているか
今の20代はなぜお金がなくても幸せなのか
お金がお金を呼ぶ法則とは何か
「幸福の経済学」人はなぜ幸福感より不幸を愛するのか