1982年、妻が初訪日のお土産に日立製の14インチのカラーテレビを中国に持ち帰った。わが団地で初めてのカラーテレビであり、両親はたいへん鼻を高くした。夜になると近所の人たちがかわるがわるテレビを見にきた。そして「日本はすごい」と感想を述べた。日本の電子産業の威力はこうして中国の茶の間に浸透していったのだ。

あの頃はまさに日本の電子産業がわが世の春を謳歌していた時代だった。しかし、いまは正反対の悲惨な状況に陥っている。

電子産業の国内生産金額は2000年の約26兆円をピークとし、13年には約11兆円に落ちた。わずか十数年で半減してしまったのだ。しかも、それまでなんとか維持してきた電子産業全体の貿易収支も同年ついに赤字になってしまった。

厄介なことに、日本には1億2000万もの人口があり、国内市場はそれなりに維持できる一面がある。内向きになった普通の日本人は海外に関心をもたなくなり、海外旅行にもあまり行きたがらなくなった。こういう人たちは、日本国内の家電量販店に展示されている商品がほとんど日本メーカーの製品だから、電子産業の凋落をまったくと言っていいほど感じていない。

だが、目を海外に向けると、日本電子産業は崖っ縁に立たされていると言ってもおかしくない。まず、今日の三種の神器とも言えるパソコン、携帯電話、自動車のなかで、日本企業がシェアを確保できているのは自動車だけだ。パソコンはすでに全滅同然。携帯電話は日本市場だけに依存するガラパゴス商品となっている。

こうした危機的な状況に警鐘を鳴らしたのが著者、西村吉雄氏だ。氏は、いまの日本の電子産業を支えているのは電子部品であり、その部品の輸出が減ってしまえば、電子産業全体の貿易収支は恒常的な赤字に転じると指摘する。

しかし日本のメディアを見ていると、読者をミスリードするかのような記事が目につく。たとえばアップルのiPhoneに日本の電子部品がどれほど組み込まれているかを誇らしげに報じてみせる。

なぜアップルも鴻海もこの日本に生まれてこないのか。著者のこの疑問はおそらく多くの読者の疑問でもある。私に言わせれば、そこにさらにハイアール、レノボ、華為(ファーウエイ)などの中国企業も例に挙げるべきだ。

「技術革新はイノベーションではない」という著者の悲痛な叫びが、昏睡状態に陥った日本企業の目を覚まさせることはできるだろうか。

消滅した三洋電機と10万人もの従業員のその後を描いた『会社が消えた日』(大西康之著、日経BP社)と併せて読めば、電子産業の切迫した現状をより深く理解していただけるのではないか。

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