先ごろNHKで放映されたドラマ「サイレント・プア」。その中で、社会福祉協議会に勤めるコミュニティソーシャルワーカーという設定の主演・深田恭子が、20歳ごろから30年間も自室にひきこもり、就労経験のない50代男性の心を開くという一幕があった。本書によると、この男性のような「若年無業者」の数は現在200万人を超え、15歳から39歳の層では16人に1人に上るという。彼らは単に怠惰なだけなのか、だとしたら社会的な支援は不要なのか――。具体的な事例とデータをもとに、そんな疑問に答えていくのが本書である。
そもそも「無業者」とは何か。簡単にいえば、仕事に就いていないが求職活動をしているのが失業者であり、そこにニートや引きこもりを加えたのが無業者である。無業者のうち後者は、失業者とは区別して「非求職型」「非希望型」と分類される。
評者はかつて内閣府で「子ども・若者育成支援推進法」の立案に携わったが、その過程で知り合ったのが著者の一人で特定非営利活動法人育て上げネット理事長の工藤啓氏だ。工藤氏らは昨年、育て上げネットが持つ2333人分の若年無業者のデータを分析し、『若年無業者白書』としてまとめ上げた。それによると、「非求職型」「非希望型」に至った理由はどちらも「病気・けが」が突出しており、30代前半では50%に迫る。
こうしたニートや引きこもりなどの若者は、ネットやメディアでは「働けるくせに働こうとしない、怠惰な人たち」と片づけられてしまいがちだ。しかし著者らは、実際には当人の意欲だけではどうにもならない困難な事情があることを、データや事例をもとに明らかにする。
そのうえで、どのような理由があるにせよ、一度労働市場からこぼれ落ちてしまった場合、(履歴書に空白が生じることから)圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまう日本のいまの社会システムと、この問題を放置した場合に生じるマクロ的な影響についても考察を巡らせる。
たとえば、一人の若者が25歳から65歳まで収入を得て(税や社会保険料の納付などにより)社会に貢献するのと、逆に生活保護を受給し続ける場合のコストギャップは、生涯で1億5000万円に達するという。失業者を除いた若年無業者約60万人にこの1.5億円を乗じると90兆円になり、1年あたりでは2兆2500億円となる計算だ。これがどれだけ巨額であるかは、現在の生活保護費総額(国費、年額)が2.8兆円であることを示せばおわかりいただけると思う。
若者が希望を持てない国に未来はない。本書をきっかけに、若者への正しい理解と支援が社会全体に広まっていくことを望みたい。