戦後史の謎として最大級のものの一つが、日本と台湾の関係の深さである。日本が公式には国交を持たない台湾(中華民国)は、それでも自由民主党に人脈の網の目を張り巡らせ、言論界にも大勢のファンを抱えている。そのような日台関係の急所に切り込み、各界の熱心な台湾ファンの心情の原点にたどり着いたのが本書だ。

その原点とは、第二次大戦終了時の中華民国の指導者だった蒋介石の演説「以徳報怨(徳を以て怨みに報いる)」だ(実際には、蒋はこの通りの発言はしていない)。戦争で日中は敵国同士だったが、戦後は恨みっこなしで、新たに友好関係を築こうという寛大な姿勢を打ち出したのである。

これには多くの日本人が感激した。だが、蒋介石はルーズベルトやチャーチル、スターリンを向こうに回して自分の戦略目標を追求した大政治家である。善良な一般の日本人には、その真意は想像もつかなかった。1949年に共産党との内戦に敗れて台湾に逃げ込んだ後の蒋は、ちっぽけな島から大陸への反攻を本気で目指していたのだ。彼にとっては日本も日本人も、その目的を達成するための道具でしかなかった。

本書の主人公たちは、その蒋介石が中華民国軍の再建のために軍事顧問として集めた日本の旧軍人の一団である。台湾に渡った日本軍人の中で最も階級が高く、自然と指導者格になった富田直亮陸軍少将の偽の中国名が「白鴻亮」だったことから、「白団」と呼ばれるようになった。

白団については従来、ほとんど資料がなかった。ところが著者は団の生き残りや遺族を回って談話と資料を集めたうえに、スタンフォード大学に委託されている蒋介石日記を読み解いたのだ。その作業から浮かび上がってくるのは、蒋介石の恩義に報いようと考えて渡台、最初は必死で中華民国軍の再建に尽くすものの、やがて台湾側の厚遇に馴れ、その一方で祖国日本の目覚ましい復興に「乗り遅れた」という焦燥感を募らせる、人間臭い姿だ。いや、いかにも日本の組織人らしい、尊敬できる、しかし哀愁も漂う姿だ。

著者は朝日新聞の記者だが、台北支局長をも務めた中国・台湾通である。埋もれた歴史の1コマ、それもかなり重要なそれを掘り起こしていく過程は、いかにも新聞記者らしくスリリングに、ほっとするような情景や人物紹介を交えつつ描かれている。そのうえ文章もこなれて、と掛け値なしの良書なのだが、苦言を呈したいところも少しある。

一つは、軍人たちに対する視線が、あまりにドライな、突き放したものだということだ。もう一つは、きわめてスケールの大きかったであろう蒋介石の戦略が、台湾から中国大陸への直接の反攻という、あまりに単細胞なものとして理解されている点である。

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