――会社の人事評価で、思うように評価してもらえません。どうすればいいでしょうか

上司も「人間」です。そして人間は、かなり不完全な生き物です。欠点もあるし、好き嫌いだってある。だから、自分の期待通りに評価されることが、この世の中にあると思うのが、基本的に間違いだと思います。

もちろん、まずは納得がいくまで上司と議論を行うべきです。「自分のことをもっと評価してほしい」「おまえは評価できない」と、お互いに感情をぶつけ合っても時間の無駄ですから、「数字」と「ファクト」(事実)と「ロジック」(論理)で議論する。目標に対して、自分はどこまで達成できたのかということを、できるだけ丁寧に論証する必要がある。

――上司と議論するなんてことはそもそも苦手なんですけど

「苦手だ」と思ったら、むしろやるべきですよね。「苦手なことをやらない」、というのは、女性と付き合ったことがない20歳の男性が、「怖いので合コンに行くのをやめておこう」と言うのと同じです。合コンに毎晩行って場数を踏んで、初めて女性と上手く交渉ができるようになる。

苦手だと思ったら必死にやるしかないのです。そのまま年をとってしまったら、何も変わりません。苦手だと思うことほど、すぐに実行せなあかんですね。

――議論してもわかってもらえなかったら?

あとは「天知る、地知る、我知る」と思えるかどうか。自分がきちんと仕事をやっているということは、天も知っている、地も知っている、何よりも自分が知っているんだから、それでええやないか、と。

――そう割り切れればいいんですけどね……

もしも、「自分は割り切れない。これだけ言ってもわからん、こんなわからずやの上司がいる会社は、自分には向いていない」と思えば、何も置かれた場所で咲く必要はないので、転職すればいい。自分が咲ける場所を探せばいいだけです。

最近では、新卒で入社した新社会人の3割が3年以内に退職するそうです。これを問題視する向きも一部にはありますが、僕は基本的にはいい傾向だと考えています。次の成長分野へ、人が順次移っていかなければ、社会は停滞するしかないからです。世の中のためにも、あなたは置かれた場所で咲いている場合ではないのです。

――ガマンして働いていたら、そのうちいいこともありませんか?

新聞の人生相談などを読んでいて、僕が一番イヤなのは、悩みに正面から向き合うのではなく、「あなたもいろいろ大変ですね。でも悪い日ばかりじゃありませんから」的な、その場しのぎの不毛な精神論。

いかなる難問であれ、正面から向き合うことが大切です。そうしない限り、人間は決して賢くはなりません。

Answer:「期待通りに評価されることが、この世の中にある」と思うのが、基本的に間違いです

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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