どうやってメキシコから巨大壁画を運んだのか?

『世界に売るということ 』平野暁臣著(プレジデント社)

『明日の神話』は、1968年から69年にかけて岡本太郎が描いた、縦5.5m、横30mの壁画。いま東京・渋谷駅のコンコースに設置されている岡本太郎の巨大壁画です。

メキシコの実業家から依頼を受けた岡本太郎が、現地で描いた巨大な作品です。

未完成のまま放置され、長年、行方不明になってしまいましたが、2003年メキシコシティ郊外の資材置き場で発見されました。

そして、この壁画を日本へ運び、修復・公開するために『明日の神話』再生プロジェクトが立ち上がりました。

計画段階で最初にぶつかった壁は輸送方法でした。

長らく放置されていたため、作品は激しく傷んでいます。そこかしこがひび割れ、穴があき、欠けていました。しかも大きい。7分割されたパネル1枚の寸法は4.5m×5.5mで、貨物専用のジャンボ機にさえ入りません。

鉄骨で輸送用の枠組みをつくり、貨物船の甲板を占拠して運ぶしかないけれど、日本までの長旅にはとても耐えられそうにない。“作品を傷めずに運ぶ”という美術輸送の常識ではとうてい輸送は不可能で、八方ふさがりでした。

そこでとった方法は、まさに常識の正反対。

作品を傷つけずに運ぶのではなく、逆に『解体』しようと考えたのです。どうせ縦横に亀裂が走っているのだから、それに沿って作品を分解しよう。そうすればコンテナに積めるじゃないか……。

身体にメスを入れるがごとく作品に刃を立てるわけで、美術界の人たちから見たら言語道断、話にならない非常識なアイデアです。実際このプランを提案したとき、関係者はみな絶句しました。でもそれで輸送の問題は一挙に解決する。ほかに道はありません。だから迷わずそう決めました。

なにごとも起こらず、いつの間にか首尾よく終わっていた、なんていうプロジェクトはありません。立ち止まることを余儀なくされたら、乗り越える方法をさがし出し、腹をくくってやり抜く。

「掟破り」が不可能を可能にするのです。

※本連載は書籍『世界に売るということ』(平野暁臣 著)からの抜粋です。

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