“見えない本音”にたどり着くためにとるべき行動

さて、問題はどのようにインサイトにたどり着くかという点だ。「アナと雪の女王」における「ありのままの自分で生きたい」という本音も、LINEが着目した「大切な人とのコミュニケーションを大事にしたい」という気持ちも、言われてみれば、なるほどと思うかもしれない。しかし、いざ一から“見えない本音”を探るとなると難しいものだ。

僕がよく聞かれることのひとつに「インサイトを正しくつかむために、街を歩いたり、たくさん調べ物をしたりするんですか」という質問がある。

たしかに街歩きは好きだし、仕事柄常に情報収集を心がけてはいる。しかし、「インサイトにたどり着くため」という観点からいうと、とるべき行動はまったく逆だ。表面的な建前にどれだけ触れても永遠にたどり着けない。建前しか言わない100人と話すより、1人か2人と1~2時間じっくり話したほうがいい。目指すべきは「広く浅く」ではなく、「狭く深く」なのだ。

本音を引き出したいときの会話にはコツがある。それは対面で、しつこいぐらいに「なぜ?」を繰り返すことだ。例えば、「なぜ、そのパンを選んだのか」という質問をしたとする。最初に返ってくる答えはたいてい「おなかが減ってたから」「コンビニエンスストアの棚で目についたから」という程度。でも、そこで引き下がらず、「ほかにも棚にはパンがあったはずだけど、あえてそれを選んだ理由は?」などと質問を重ねていく。相手が「あんまり考えたことがなかったけど、甘いものが欲しかったからかな」と答えたら、「甘い物が欲しいのであれば、××という選択もあったと思いますけど、これを選んだのはなぜですか」と聞く。これを10回ぐらいやると、たいてい相手が怒り出す(笑)。でも、こうした質問を7~8回繰り返すことで、ようやくインサイトが見えてくる。

若者の消費行動を指して言われる「車離れ」や「酒離れ」「留学離れ」といった一連の「×××離れ」もまた、インサイトをとらえていないことの表れだと、僕は思う。大人たちがよってたかって「どうせ最近の若者はこうだ」と決めつけている。でも、インサイトを掘り下げると、彼らの行動にも理由がある。そもそも離れていないということが判明することもある。

例えば、最近の若者がお酒を飲まない理由を調査したところ、興味深いことがわかった。若い世代に話を聞くと「他人にかっこ悪い姿を見られるのは絶対にイヤだ」と感じている人が非常に多い。ここでポイントとなるのは「かといって、かっこいい姿を見せたいわけではない」というところだ。

バブルの頃であれば、若者のインサイトの主流は「かっこいい姿を見せたい」だった。だから、外車に乗り、おしゃれなバーで高価な酒を飲むというイメージ戦略が効果的だった。しかし、今の若者には響かない。「かっこいい姿を見せたい」と思っていないのだから当然だ。

そこさえわかれば、アプローチが変わる。例えば、「酔っ払って大騒ぎするような“恥ずかしい飲み会”でなければ、参加したい」と感じるかもしれないし、「泥酔して粗相をする心配がない酒なら、飲みたい」と思うかもしれないのだ。