SNSの登場は人の行動にどう影響を与えたか

映画「アナと雪の女王」の成功には劇中歌「Let It Go」(邦題:ありのままで)が大きな役割を果たした。14年7月の時点でイディナ・メンゼルが歌うオフィシャル版のYouTube再生回数は2億回を超え、女優・松たか子による日本語吹き替え版も5200万回を突破。

また、一般の人々の「歌ってみた」動画や、音楽に合わせた“口パク”映像が数えきれないほどアップされ、「レリゴー現象」とでも呼ぶべき、ムーブメントが巻き起こった。さらに劇場で映画を見ながら一緒に歌う「シングアロング版」も開発される。子どもから大人まで、リアルやネット上、あらゆる場所で「Let It Go」を体験したわけだ。インサイトに基づく体験は人の心を大きく揺さぶり、行動を促す。

さらに「アナと雪の女王」の事例で興味深いのは、ディズニーがある意味大胆にコントロールを手放しているという点だ。これまでディズニーは保有するキャラクターの肖像権からイメージに至るまで徹底的に管理してきた。ミッキーマウスは「世界に1人しかいない」という設定のため、同時刻に複数のテーマパークに登場しないというのも、有名な話。いわば、「すべてをコントロールする」を象徴するような存在だったのだ。

ところが、「アナと雪の女王」では日本どころか、世界中の一般人が好き勝手に「Let It Go」の動画を公開。ディズニーは一切コントロールしなかった。戦略に基づくものだったのかはわからない。しかし、この黙認の結果、ムーブメントはすさまじい勢いで増幅した。

こうした状況をいわゆるリスク対策の観点から見ると、これまで以上に「不慮の事態」―思いがけない批判や誤解、勝手な解釈に対応しなければいけないということだ。

一方で、インサイトをとらえた情報が大きく増幅するチャンスを秘めているという見方もできる。コントロールできない世界を必死にコントロールしようとするほど、それ自体がかっこ悪く映る。しかし、コントロールできない新しい世界を受け入れたコミュニケーションは、その「コントロールを手放す」ことそのものによって大きな共感を得られる可能性がある。