原発をめぐる世論に見る不思議な現象とは

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表1:発電用燃料費の増加見通し 表2:電力7社の料金値上げと想定された原子力発電所の再稼働

火力発電所用燃料費の増大を主要な理由にして、東京電力・関西電力・九州電力・北海道電力・東北電力・四国電力・中部電力の7社は、12年9月から14年5月にかけて、電気料金を値上げした。しかし、ここで忘れてはならない点は、これら7社の値上げが、近い将来における原子力発電所の再稼働を、いずれも前提にしていたことである(表2参照)。この事実や、電力需給検証小委員会報告書の指摘をふまえるならば、原発の運転停止が長期化した場合には、電気料金の再値上げが避けられないことになる。今、日本では、「電気料金の再値上げか、原子力発電所の再稼働か」という二者択一が鋭く突きつけられていることを、我々は直視しなければならない。

ここまでの議論から、電気料金再値上げを回避するためには、昨年定められた規制基準をクリアした原発のある程度の再稼働はやむをえないということになるが、ことはそれほど単純ではない。原発再稼働をめぐる世論が、一見すると、混乱しているからである。

原発のあり方について、中長期的な見通しをたずねると、世論調査で多数を占めるのは「将来ゼロ」であり、「即時ゼロ」や「ずっと使い続ける」は少数派である。「将来ゼロ」とは、「当面はある程度原発を使う」ことを意味する。

一方、より短期的な見通しにかかわる原発の再稼働の賛否についてたずねると、世論調査で多数を占めるのは「反対」であり、「賛成」ではない。「再稼働反対」とは、事実上、「原発即時ゼロ」につながる意味合いを持つ。

つまり、原発をめぐる世論は、中長期的見通しと短期的見通しとでは矛盾した結果を示すという、ある意味で不思議な現象が見られるわけである。この現象について、どのように理解すればいいのだろうか。

筆者(橘川)の理解によれば、世論の真意は、「当面はある程度原発を使うことはやむをえない」という点にある。しかし、現在の政府が進める原発再稼働のやり方には納得できない。新しいエネルギー基本計画で電源ミックスを明示することを避けた点に端的な形で示されるように、論点をあいまいにし、決定を先送りして、こそこそと再稼働だけを進める。このような政府のやり方に対して、「当面はある程度原発を使うことはやむをえない」と考えている国民の多くも反発を強めており、再稼働の賛否のみを問われると、「反対」と答えているのである。

政府が電源ミックスを明示しないのであれば、我々自身がそれについて考えるしかない。以前「原発の再稼働はこれからどう進むか(http://president.jp/articles/-/12312)」で詳しく述べたように、30年における原子力依存度は、3.11前の26%から4割以上減退して15%程度にとどまることになるだろう。そして、30年における電源ミックスは、原子力15%、再生可能エネルギー(水力を含む)30%、火力40%、コジェネ(熱電併給)15%となるのではなかろうか。