一つ一つ包む作業が出てくるちまきや、普段なじみの薄い地方の郷土料理や外国料理など、調理員が作業工程の複雑さを負担に感じるメニューも、子どもたちに喜んでもらうために取り入れる。生活科や総合的な学習、社会科や体育等の授業で食育を取り入れる場合も、授業の進度状況によっては二の足を踏む教員もいるが、それも調整してもらう。食に関心を抱いてもらいたいと旬の料理や郷土食を献立に加える。

生産者との交流の場をつくる――。学校の栄養士の仕事は、定められた栄養素が摂れる献立を作り、予算内で食材の交渉や手配をし、調理場の衛生管理や、委託する民間の調理員との打ち合わせ、味見などが仕事だが、それ以上の仕事を担っていることがわかる。

そんな今泉さんだが、各家庭の食の格差を感じることがあるという。

「食のバラエティが少ないと感じることがあります。お母さんが嫌いな食材を出さないとか、子どもが嫌がるものは無理に食べさせないとか。納豆をはじめて食べたと話す1年生もいます。昔のように栄養を満たすだけでなく、食の多様さやマナー、みんなで食べる楽しさを教えていくためにも、給食は必要とされているように感じます」

中田校長も「『おいしい給食』は食の大切さを子どもだけではなくて、家庭や地域に伝える役割も果たしているのではないかと思う」と話す。

「給食で出た料理、作って」という子どもとの会話をきっかけに、学校を訪ねた際にレシピを聞く保護者もいる。

朝、中田校長が校門に立っているとその日の給食のメニューを話す児童がいる。ときには「学校に行きたくない」という子どもに対する「給食だけでも食べに来てね」という一言が登校のきっかけになる。

中田校長は確信している。「おいしい給食」は子どもたちの登校意欲にもつながっている、と。

「子どもにとって、おいしいというのは理屈ではありません。しかも給食は1年間で198食ですから。それだけ比重も大きい。『おいしい給食』が、学ぶ意欲、食べる意欲、そして生きる意欲につながっているとも言えます」