「選択と集中」より「一極集中」で臨む

フィールド&マウンテン社長 
山田 淳氏

登山と経営コンサルティングはよく似ています。目指す山やクライアントの要望によって、必要な準備やスキルが異なるように、登頂や事業を成功させるためには、「現状から何ができるか」を考えるのではなく、「いま何をしなければならないか」を逆算して考える必要があるからです。

私がエベレストに登り、七大陸最高峰登頂の最年少記録を塗り替えたのは、2002年5月のこと。もしもエベレストではなく世界で最も難しいといわれるK2が目標であれば、まったく違うトレーニングが必要でした。真夏に登れるK2に対して、夏のモンスーンのせいで春と秋にしか入れないエベレストでは、耐寒トレーニングを重視しなければなりません。K2を目指すならさらに登攀技術を磨く必要もあったはずです。つまりエベレスト登頂という具体的な目標から逆算して計画を立てたからこそ、「最年少登頂」という記録を達成できたのです。

人生には限りがあります。全力で夢の実現に取り組むのなら、何かひとつを選ぶのではなく、選び取った以外の物事をすべて切り捨てる覚悟が必要です。それは「選択と集中」ではなく、「一極集中」といえるでしょう。

そんな考えを持つに至った最初の体験は中学受験でした。小児喘息を患い体が弱かった私は、自分は頭で生きていくしかないのだと信じていました。小学4年生からの3年間、朝起きた瞬間から学校の始業ギリギリまで漢字や計算のドリルをやり、休み時間も勉強して放課後は塾。帰宅後もすぐに机に向かい、食事中は兄弟と県庁所在地や各国の首都を当てるクイズをやって、息抜きに「まんが日本の歴史」を読む……。合格発表のとき、母は「これ以上、勉強させられる時間は1分もなかった」と泣き崩れました。