君は何のために「成長」したいのか

マッキンゼーの3年半で一番学んだことは「目線を上げる」ということでした。ある事業に最大のインパクトを与えるためには、現場の問題に一つずつ対処するのではなく、俯瞰した立場から将来を見据えた議論をすることが必要なのです。私の考え方もやがて、「山を楽しむ人を増やす」から「登山を通じて社会貢献がしたい」に。そして「登山で日本経済に貢献したい」へと変わっていきました。

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入社当時、3年で山の世界に戻ろうと決めていました。しかし3年半が過ぎようとしても、具体的なビジネスプランは見つかりません。妻のお腹には2人目の子どもがいて、なにより目の前の仕事は充実していました。マッキンゼーは「成長至上主義」の会社です。常に熱中できるだけの困難な課題が与えられ、成長を促されます。「成長」というのは麻薬です。これほどの快感はなかなかない。けれども「成長」は「目的」を達成するための「手段」にすぎないはずです。登山業界を変えるスキルを学ぶという「手段」が、いつの間にか「目的」になっていたのです。

本当の「目的」は何だったか――。09年7月、自分にそう問い直す出来事がありました。北海道のトムラウシ山で登山者9人が亡くなった遭難事故です。すぐに会社を辞める決断をしました。心のどこかに迷いがあった自分は、この事故を知って「登山人口の増加」と「安全登山の推進」という本来の「目的」に引き戻されました。

では、エントリー層の問題を解決するには何が必要か。あらためて分析を進めると「最大の問題はコストではないか」とわかりました。レジャーが多様化する一方で、ひとつの趣味にかけられる費用は限られています。登山用具は定価販売が主流で、一式を購入するには10万円近くかかりますが、レンタルであれば1万~2万円で提供できる。ここに可能性を見出して、10年に会社を設立しました。狙いは当たり、50セットの登山用具から始めた「やまどうぐレンタル屋」は、いま約4000セットを揃えるまでになっています。