マッキンゼーは世界一のコンサルティングファームであるが、日本支社には数百人の社員しかいない。なのにどうして存在が際立つのか。出身者の方々に思考のトレーニング法を伺った。

新入社員が役員に「指示」をする理由

キャリア形成コンサルタント 
伊賀泰代氏

入社1年目のことです。多忙なパートナー(役員)との会議時間をやっとのことで確保しました。2週間も先で1時間だけ、しかも彼は海外出張から帰国の当日、空港から直接オフィスに戻って私とミーティングというスケジュールでした。私は彼の意見をいろいろ確認しようと、万端の準備で待っていたんです。ところが会議室に現れたパートナーは、「プラハはすばらしい街だった」「どの建物にも歴史の痕跡が――」などと雑談を始め、なかなか仕事の話に入りません。私は「確認したいこと、決めてもらいたいことが山積みなのに……」と焦り、泣きたくなりました。でも当時、新入社員だった私は、シニアなパートナーに何も言えませんでした。すると20分ほど経ってから、彼がこう言ったのです。

「俺はこのまま雑談を続けててもいいのか? おまえにはこの会議で出さなければいけない成果目標があるはずだ。そのためには俺に、『雑談はやめて、この案件の話をしてください』と言うべきだ。自分の仕事には自分でリーダーシップを発揮しないと、黙って座っていても誰も助けてくれないぞ」

その通りでした。たとえ相手がシニアな役員でも、私には私の仕事のためにリーダーシップを発揮する必要があります。後から上司の態度について愚痴を言えば済むわけではありません。マッキンゼーでのリーダーシップ・トレーニングは、このように日常的な場面で行われるのです。

私は10年以上、マッキンゼー日本支社の採用マネージャーとして、数千人の候補者に「最初の面接者」として会ってきました。前提となる語学力に加え、その採用基準は大きく分けてふたつです。

1. リーダーシップがあること
2. 地頭がいいこと