逆に退職金を生活費として使うことで年金を増やす手もある。年金を受け取れる年齢になったときに「繰り下げ受給」の手続きをするのだ。年金受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%増額され1年では8.4%も増える。繰り下げ受給は老齢厚生年金と老齢基礎年金の両方でも片方だけでもできるので検討してみよう。
ギリギリ生活の水準を少しでも引き上げるためには妻のパート収入を増やすという方法がある。年間の収入が130万円を超えると夫の社会保険の扶養を外れることになるが、妻がパート先の厚生年金に加入できれば将来の夫婦の年金額が増えることになる。その代わり社会保険料負担が増えるので「年収180万円から200万円くらいを目標に働けるといいですね」(横川さん)。
ここまでは退職後も働くことを前提にしてきたが、経済ジャーナリストの岩崎博充さんは「働かなくたって別にいいと思うんですよ」とうれしいことを言う。
「65歳から年金がもらえるわけだから、それまでは退職金や貯蓄を使ってタイやフィリピンのような物価の安い外国で暮らせばいい。生活費4万~5万円で普通の生活ができますよ。そういう発想の転換も必要でしょう」
横川さんも「価値観の見直し」を提案している。「田舎なら畑で野菜を作ったり近所の人と物々交換したりして生活費10万円以下で暮らすこともできます。また1000万円以下の物件を買って念願だった喫茶店を開く人もいますね。うまくいっている人の共通点は儲けようと思わず、ただ好きでやっているうちになんだか儲かってきたぞというところにある」。
そんなギリギリ生活を楽しむための大前提に持ち家があると、森永さんはいう。
「東京都の高齢者生活の実態調査を行った経験でいうと、賃貸で暮らして老後も家賃を払い続けている人と、ローンの終わった家を持っている人では生活が劇的に違います。例えば23万円の年金から8万円家賃を払ったら生活費は15万円になる。23万円と15万円では大きな違いがありますよ。だから私は、ボロでもいいし、駅から遠くてもいいからしっかりした家を買ったほうがいいと思う」