「世界のどこでも生き抜く人」の育成を目指す

もっとも、法政大学の校風は「自由と進歩」。多くの卒業生はとりわけ「自由」という言葉に価値を置く。教科のカリキュラムや教員からの束縛が相対的に小さく、学生はその中で自主性という力を身につけるからだ。

田中総長は、経済学部の卒業生で元ハードル選手の為末大氏を例に挙げ、「自由と自律を楽しみ、世界のどこでも生き抜く人」の育成を目指したいと強調した。

そのためには、「英語教育だけでは十分とはいえない」(田中総長)。法政には英語だけで講義を行うGIS(グローバル教養学部)があり、留学生向けの英語によるカリキュラムも充実している。それに加え、「フィールドワークを通じてグローバル体験を積む手助けをしたい」。

国際ボランティアや国際インターンシップに従来以上に力を入れるほか、英語圏出身者と触れ合う学生の自主活動を後押しするなどの施策を進めるという。

田中総長は1952年、横浜市生まれ。法政大学文学部日本文学科を卒業後、同大学院人文科学研究科を修了。80年、母校の第一教養部専任講師となり、助教授、教授を経て、教養部制度の廃止とともに社会学部教授。2012年からは社会学部長を務めた。

筆者は法政大学法学部を青木総長時代の88年に卒業した。当時は学部のほか教養部が学生の教育に当たっており、学部のゼミのほか教養部に通称「教養ゼミ」と呼ばれる少人数の英語特別講座が開かれていた。そこで教えていたのは文芸評論家で思想家の柄谷行人氏、フェミニズム研究の田嶋陽子氏といった個性的で知名度も高い教員たち。田中氏もその一員として、ひときわ目立つ存在だった。その後も数々の賞を受賞するなど学者、文化人としての実績は申し分ない。

ただ、2年間の学部長経験はあるものの、組織運営の実力はほぼ未知数。不安視する声もある中で、明確で現実的なビジョンを示したことは大きな一歩といえるだろう。いかに大組織を動かし、ビジョンを現実のものにしていくか。今後の成果に期待したい。

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