実は紹介した磯野家のシミュレーションは、小早川氏の説明によるものだ。日本の漫画を支えてきたメーンキャラクターは普通の家庭の子どもたちばかり。『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』の主人公たちが年老いたときに幸福な余生を送るためには。その想いから、学研ココファンが展開する高専賃は磯野家や野比家をターゲット層と仮定している。

「(ちびまる子ちゃんの)花輪くんや(ドラえもんの)スネオくんあたりは、放っておいても入居金2億円くらいの超ゴージャス有料老人ホームに入って、『おはようございます、スネオ様』とか言われるようになるからいいんです。不動産屋の花沢さんや小説家の伊佐坂先生も、3000万円クラスのホームに入れるから大丈夫。問題なのは絶対将来うだつの上がらないサラリーマンになるのが確実なのび太です。善良な一般家庭の彼らが、生まれ育った地域に安心して住み続けられる商品を開発したい」

そのため、価格帯は比較的手が届きやすく設定している。最低限必要なのは、月々の賃料と光熱費などの共済費、医療面や生活介助等のサービス費のみ。ココファン日吉を例にすると、月々の賃料7万5000円(約18平方メートル)、共益費2万円、サービス費3万2550円で、合計12万7550円である。入居時に高額な一時金はない代わりに、通常の賃貸住宅同様、敷金2ヵ月分がかかる。

住宅はすべてバリアフリー、介護事業所を併設し、地域の医療機関と提携し、住居にクリニックを誘致することで1日24時間365日、何かあればヘルパーやドクターが駆け付ける。食事は希望者ごとに一食から提供し、家族が作った料理も持ちこめる。介護度が高ければ介護型に、介護度が低ければ自立型に夫婦一緒に住みながら自炊も可能だ。仮に前述のフネさんが回復し、介護度3になれば、いつでも解約して自宅に帰ることもできる。

高専賃と有料老人ホームの大きな違いは前述の契約形態だ。高専賃はあくまで賃貸住宅のため、利用者が購入するのは居住権であり、何かあった場合も借地借家法によって保護されるのである。

学研ココファンはこの手の「自宅感覚の」高専賃を、各地に広げていきたいと考えている。もちろん高専賃が介護の最終にして最高の形態であるとは断言できない。だが、すべてがパッケージ化されているが故に高額にならざるをえない施設に比べると、本人の必要に応じてサービスをカスタマイズしながら、家族のいる街で「自分の家」に住むことができる高専賃は、在宅と施設の長所を組み合わせたという点で、強力な選択肢の一つとなりえるだろう。