それらに共通するのは、ほかの人がまだつくっていない製品やサービスを生み出していることだ。今日の経済では、そういう産業に金が流れ込む。それは、企業の収益や国の誇りにとって大きな意味をもつだけでなく、良質な雇用を生み出すという非常に大きな効果も生む。理由は単純だ。アップルがiPhoneを1台売るごとに受け取る321ドルのうち、一部は同社の株主の懐に入るが、残りはクパチーノのオフィスで働く従業員のものになる。また、アップルはきわめて高い利益率を誇っているので、イノベーションを継続するために投資しようというインセンティブが働き、人材を雇い続ける。イノベーションの面で優れている企業ほど、従業員に支払う給料が高いことも、いくつもの研究によりわかっている。
IT産業においては製造業を上回る規模と速度でアウトソーシングが進み、いずれ完全にアウトソース化されると予測する論者は多い。ハイテク関連の仕事は工場に出勤しておこなう必要がないので、イノベーション産業の雇用の大半は、最終的には低賃金の国に出ていってしまうというわけだ。きわめて悲観的な予測だが、一見すると正しそうに思える。たとえば、インドでは、年に4万ドル支払えば経験豊富なソフトウェア・エンジニアを雇えるが、シリコンバレーや東京では、その数倍の給料を支払っても平均レベルのエンジニアしか雇えない。アメリカや日本の企業は当然、自国内でエンジニアを雇う代わりに、インドにアウトソーシングして人件費を節約しようとするのではないか?
トーマス・フリードマンはグローバル化をテーマにした著書『フラット化する世界』(邦訳・日本経済新聞出版社)で、携帯電話、電子メール、インターネットの普及によりコミュニケーションの障壁が低くなった結果、ある人が地理的にどこにいるかは大きな意味をもたなくなったと主張した。この考え方によれば、シリコンバレーのような土地は存在感を失っていくことになる。シリコンバレーが栄えているのは、ハイテク関連の仕事をする人たちが密集しているため、緊密に連携しやすいからだ。しかし、人と人が物理的に接触する必要がなくなれば、こういう土地の強みは失われてしまう。
もっともらしい議論だが、データを見るかぎり、現実の世界ではこれと正反対のことが起きている。アメリカのイノベーション関連の雇用は増えており、その増加ペースはほかのあらゆる業種を大きく上回っている。製造業の雇用の縮小をもたらした2つの要因、すなわちグローバル化と技術の進歩が、イノベーション産業の雇用を増やす原動力になっているのだ。この10年間、インターネット、ソフトウェア、ライフサイエンスの3部門の雇用は、それ以外の業種全体の8倍以上のペースで拡大してきた。もしすべての業種でこの3部門と同じペースで新規雇用が生まれていれば、いまアメリカには失業が発生していない。それどころか、赤ちゃんやお年寄りも含めて1人の国民を4つの雇用主が奪い合っている計算になる。このようにイノベーション産業の雇用が飛躍的に拡大したのは、単に運がよかったからではない。3つの強力な経済的要因が作用した結果だ。この点については後述する。