原発事故の影響を誰に相談したか

それではどうするかといえば、私の場合は、信頼できる研究者や専門家とインタラクティブに議論をするようにしている。講演を聴いたり本を読んだりするような一方通行の勉強ではなく、相手の説に対してどんどん突っ込みを入れながら、知りたいことに関する確証を得ていく。講演や本の場合、すでに知っていることや知る必要のないことまで含むため時間的なロスが大きいが、専門家に直接聞く方法は、その点でロスが少ない。そして一流の専門家は1年をかけても説明しきれないほど、深い知見を持っているものだ。

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「パケット通信」のようなテーマであれば1人だけでもいいが、「アベノミクスの行方」や「原発事故の影響」といった大きなテーマでは、立場の異なる3人の専門家に、それぞれ2時間ずつ議論の時間をもらう。問題は人選だ。たとえば、資産運用について学びたいときに、民間金融機関に勤める専門家を招いてしまうと、営業的なアジェンダを持ってくるなど、バイアスのかかった見解を聞かされる恐れがある。

テーマに関して中立かつ公正な立場から見解を聞きたいときには、その人の生業と経歴を調べるといい。要するに、何でメシを食べていて、誰の弟子かということだ。とりあえずこのふたつを押さえたうえで、3人から話を聞ければ、問題の骨格は掴める。

たとえば、3.11のときには、会社の財産を保全し、社員とその家族の安全を守るために、原発事故について正確な情報を得ようと必死で情報収集をした。だがテレビに出ている専門家はほとんどが「原子力ムラ」の出身であり、発言にはバイアスがかかっていることが強く疑われた。

原発事故については現社長の守安功も強い問題意識を持って情報収集をしていたので、誰の見解を聞くべきかは、守安も率先して調査していた。そして、守安が真っ先に名前を挙げたのが大前研一さんだった。大前さんは私のマッキンゼー時代のボスであり、日立の原子力技術者というキャリアを持つ。大前さんは我々の依頼を快諾し、原発の原理から原子炉の構造、そして現在の状況に至るまで、懇切丁寧に解説してくださり、さらに状況変化があるたびに電話をくださった。原発事故の初期段階において、大前さんの状況認識が最も正確であったことは、事実が公表されるにつれて明らかになったことだ。