【村上】40代の方に、「いまの20代は戦うことから逃げている」と言われて驚いたことがあります。たしかに同世代は競争原理を避ける傾向がありますが、それは価値観が多様化した結果です。昔は、お金をどれだけ稼ぐかという競争をみんなでしていましたが、いまはそれ以外の軸を重視して働く若者が増えてきた。たとえばお金はそこそこでいいから、社会に貢献したいとか、やりがいの感じられる仕事をしたいという価値観です。40代の人からは、そうした働き方が逃げているように見えるのかもしれません。

【岩瀬】私は、ミドルもお金を稼ぐことだけを目的に働いているのではないと思います。ただ、価値観が画一的ですよね。いまのミドルの多くは新卒で入社して、そこでずっと働いて給料を上げ、マイホームを買うというステレオタイプなレールに乗ってやってきて、それ以外の働き方や生き方があることを知らされていなかった。そういう意味では、お金を稼ぐことがすべてではないけれど、他に選択肢がなかったように見えます。

それと比べると、いまの若い世代は多様な生き方があることを知っています。
「若者の○○離れ」と言われますが、あれは選択肢が増えた証拠。お金を稼いで自動車を買うことだけが幸せじゃなく、仲間とわいわい鍋を囲むことも人生を楽しむ方法の一つだと若い世代は気づいてしまったのです。

NPOが全米文系就職人気ランキングで3位

【村上】選択肢が広がったのは、SNSの影響も大きいでしょう。以前はニッチな分野だと同じ趣味の人と出会うことが難しかったですが、いまはSNS上で小さなクラスターがいくつもできて、既存のレールから外れた人たちがコミュニケーションする場ができました。情報の流通スピードも速いので、これからはさらに個々人の個性がより強まっていくはずです。個人の働き方も同じで、これからは既存のレールに違和感を持つ人たちがつながって、いろいろな流れができていくのではないでしょうか。

その点で言うと、「ティーチ・フォー・アメリカ(TFA)」が、12年の全米文系就職人気ランキングで3位に入ったことは象徴的な出来事でした。TFAは、優秀な大学の卒業生を教育困難校に2年間、教師として派遣するNPOです。NPOが名だたる企業をおさえて3位に入ったということは、給料より社会貢献を重視する学生が一定数いるということ。これはいままで見られなかった傾向です。